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そして、今日も。
「え、えっ、違、いますよ。あの、僕の方がいろんなことしてもらってるので……っ」
「ううん、ほんと、あんな信幸を見るのなんて、小さい頃以来だもの。もしかして聞いてるかな、信幸がマフラーを外したがらない理由」
「…………、はい」
小さくて、まだ言いつけられた意味もわかっていなかった信幸くんが、友達の前でマフラーを取った結果、起きたこと。僕が勝手に取ってしまったときにも見せた、泣きそうな顔。
思い出すだけでも、胸が痛くなる、昔の話。
「それがあってからずっと、人とそこまで関わりを持とうとしなかったんだ。見てて心配になるくらいで……あんな風に、マフラーを取ったままでいるなんて、絶対なかったもの」
少し寂しそうな顔で微笑むお母さんの顔は、やっぱり信幸くんに似ていて、それでも胸が締め付けられて。そんな僕のことがわかったのか、お母さんは「でもね、」と話を変えるように微笑んだ。
「さっき見た信幸、ほんとに安心してる感じだったよ。たぶんうちにいるときより自然体なんじゃないかな? よっぽど、芽衣さんの傍が居心地いいのかもね~、あと、………………ね?」
「えっ、あっ!」
ちょっとイタズラっぽく笑うお母さんの視線の先には、今朝っていうか昨夜っていうか、その、使ってた……あう、うわぁぁ。
信幸くん、片しておいてよ!!
ふたりとも慌ててたもんねー、とニコニコしてるけど、お母さんもスルーしといてほしかったなぁ!!!
「ちょ、ちょっとっ、あのっ、待ってて! ください!」
そのあと、使いかけのまま置きっぱなしになってたものを片付けて、また話が始まって。
「私もねぇ、芽衣さんくらいの頃に旦那と知り合ってね? シカゴの路地裏でスパーリングしてたら――、あっ、帰って来た?」
「ただいま~」
「おかえり!」
「別に母さんの部屋じゃないんだけど……」
え、気になるところで終わっちゃったんだけど! あ、あとで信幸くんに訊いてもいいのかな……そんなことを思いながら、僕も遅れて玄関に向かう。
「おかえり……、」
「ただいま」
向けられる笑顔で胸がいっぱいになって、また信幸くんのことが好きになっていくのがわかって。
たぶん、これからもそうなのかな、とか思って。
きっと僕たちはこれからも、もっとお互いのことを知っていく。
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