出会いは唐突に。

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出会いは唐突に。

 信幸(のぶゆき)くんと出会ったのは、2年の秋に行ったオーキャンだった。志望校――というには少しレベルの高い大学だったけど、ここにはオカルトや怪異譚の研究をしている先生がいるとかで、なんとしても入りたいって思ったのだ。  僕が行ったときにはキャトルミューションをはじめとした超常現象を体験しようというコーナーが設置されていて、もちろんやってみた。あの浮遊感と未知への期待感を、僕はきっと忘れないに違いない。そこの帰り道、広すぎた敷地で道に迷っていた僕を助けてくれたのが、信幸くんだったのだ。 『大丈夫ですか?』  心細さに潰されそうだった僕の前に現れた彼は本当に、童話の中の王子様のようにすら思えて。たぶんその瞬間に、心のなかに信幸くんのスペースができたんだと思う。  僕が迷わないようにと付き添ってくれる間もいろいろ話していてわかったのは、信幸くんはこの大学に通う学生さんだってこと。それも、僕が志望してる学部の人みたいで、所属しているゼミも志望理由になっているオカルト研究ゼミ! なんか、これで運命を感じないのが無理じゃないかというくらいの偶然の一致を経て、僕たちは友達になった。  オカルトにも詳しいし、他の話題にも相当通じている信幸くんは、同級生たちとはどこか違っているように思えて、だんだん惹かれて。友達だった関係が“恋人”になるまで、そう時間はかからなかった。  恋人になっても僕たちの感じは変わらなかった。けど、やっぱり“恋人”ならしたいことのひとつやふたつはあるし、知らないことは知りたくなるし、いくつか不満がなくもなかった。  まず、いろんな人に優しすぎ。別に優しいのはいいことなんだけど、明らかに下心見え見えな子にも警戒心ないし、僕が見てないときに何されてるかわかんないよ……。  それに、どんなときでもマフラーを取りたがらない。キスするときにもちょっと当たってチクチクするし、一緒にご飯を食べてるときも、汗をかいているのに取ろうとしない。春になっても、それを通り過ぎて夏が来ても、彼の首にはずっとマフラーが巻かれている。プールに行ってもずっと付けっぱなしのマフラーがちょっとどころじゃなくて、だいぶ気になる。 『取らないの?』 『……ごめんね、これだけは駄目なんだ』  その少し申し訳なさそうな顔に、なんとなく寂しそうな色も見えて、なんとなく察した。  へぇ、そうですか。  昔の彼女からのプレゼントとか、そういうやつですか。いや、いいよ? 別にそんなのあったって信幸くんが僕を大事に思ってくれてるのは伝わるし、何度も言葉にして『好きだ』って言ってくれるのは本気なのわかるし。  けどさ、首はそれなんだもんね……。  モヤモヤが溜まって仕方なくて、たまにどうしようもなくイライラしてしまう。  だから、今日。  付き合って初めて、信幸くんのおうちに泊まることにした日。お互いどこか、心のなかで、なんとなく覚悟を決めてきた日。  決めていたんだ、今日、信幸くんのマフラーを取る……!  夜になって、なんとなくお互いに雰囲気が盛り上がって。そのまま、どちらからともなくキスをして。 「んっ……、ちゅ、ちゅる、ん……」 「…………はぁ、」  お互いの吐息をお互いの口に吹き掛けるように、ずっとくっ付いたままキスを続ける。信幸くんの緊張したような指がブラの上から僕の胸に触れて、ワイヤーの感触が少しだけ痛くて。少しずらして、直接触れて、だんだん指がお腹とかを下りてきて。え、もうそこ触っちゃう……よね……。  体が熱くて、何も考えられなくなりそうなくらい、信幸くんの触れている場所から電流みたいなものが走ってくる――――でも、忘れちゃいけない。  信幸くんのがお腹に当たる熱い感触に浮かされるように、普段こんな声出さないのに、なんて声も出ちゃってるのに恥ずかしくなりながら、必死に、熱い胸板にキスするのに紛れて、彼のマフラーを引っ張って外した。 「あっ……、」  ごろん、  信幸くんの焦ったような声が聞こえて。  何かが落ちたような音が聞こえて。  僕の足下から「えっ、」と声が聞こえて。  ふと見上げた先には慌てたようにわたわた動く、首のない信幸くんが、見下ろしたベッドの上には、まだ自分の手が触れている僕の部分を泣きそうな顔で見つめている、首から上の信幸くんが、いた。   * * * * * * *  それで、今に至る。  慌ててベッドから下りて部屋の隅まで行った信幸くん(身体)に踏まれないように、信幸くん(頭)を膝まで抱えた僕に、「だから、マフラーを取らないで、って言ったのに」と泣きそうな顔をしている信幸くん。  それが痛くて、気まずくて、まず「ごめん」しか言えなくて。 「見ちゃったなら、話さないとね」  そう言って彼が話したのは、僕の知らなかった信幸くんの秘密だった……。
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