8人が本棚に入れています
本棚に追加
カミングアウト。
ベッドの上に思わず正座してしまっている僕の膝に乗って、信幸くん(頭)は神妙な表情で“秘密”を打ち明けようとして、その前にふと僕を見上げてきた。
「実は俺……、あの、芽衣ちゃん大丈夫?」
「え、なにが?」
「いや、だってほら、今の俺、首だけだよ? なんつーか、怖かったり……気持ち悪かったりしないの?」
「うーん、びっくりしたけど、別に? なんか、ほら、信幸くん知ってるかわかんないけど、あの……首なし騎士みたいっていうか」
「え、」
「え?」
思わず語りそうになってしまった口を、驚いたような声に止められる。見ると、信幸くん(頭)は驚いた表情で僕を見ていて。なんとなく気配を感じて見ると、身体の方もなんだか呆然としたように僕の近くに立っていた。
「えっ、な、なんか気に障ること言った? ならほんと、なんかごめん……」
「いや、俺、なんかほんとにその首なし騎士の子孫?らしいんだよね……。まさか言われるなんて思わなくてさ、びっくりしただけだよ」
「ほえぇ~」
なんか、想像もつかない世界というか、え、これ何かのドッキリとかじゃないよね? ……ていうか、ほんとだったら、これ凄いことじゃない?
「初めて見た……」
思わず声が漏れる。
だって、首なし騎士なんて、フィクションの世界でしか見ないっていうか、ほんと、それこそ何かの物語だよね、もう!? え、すごくない、僕の彼氏、首が取れる!
ちょっとおかしなテンションになりながら、信幸くんの話を聞き始めた。
「いつの時代なのかわかんないんだけど、かなり遠いご先祖様がたまたま出会った首なし騎士に一目惚れしたんだって。それで……その、子どもができたらしいんだ。
で、それからたまに、その首なし騎士みたいに首が取れる子どもが生まれるようになって…………あ、なんかすっごい目をキラキラさせてるけど、別に伝承とか物語みたいな能力はないよ? ただ首が取れるだけだから」
「うっ、あ、そうなんだね」
なるほど……、確かに信幸くんが全然知らない人の死期を告げるとかそんな姿あんまり想像したくないっていうか、うん、そういうのするなら僕だけに……ってそうじゃなくて!
なんとなく拍子抜けしたような顔をして僕を見ている信幸くん。どうしたのか訊くと、本当に拍子抜けしていたらしい。
「なんか、こんなの他人には絶対知られたくないって思ってたんだ。小さい頃いろいろあったからさ」
「そうなんだ……」
お母さんからの言いつけを忘れて、マフラーを取ってしまった――仲のよかった友達の目の前で。そのときの恐怖でいっぱいの目が、忘れられない。
時々声を掠れさせながらそう話す信幸くんの頭を、思わず抱き締めていた。別に首がとれたって、信幸くんは信幸くんで変わらない。そう言ってあげられる人が、外にはいなかったのかな。そう思うと、なんだか胸が締め付けられるようで、僕自身がそういう目を向けられたみたいに、苦しかった。
僕は、そんなのを聞いても変わらないよ。
やっぱり、信幸くんのことが好きなままだよ。
そう伝えたくて、抱き締める。
いつの間にか近付いていた身体の方も、そっと背中を抱く。伝わってるといいな、そう思いながら。
その後のことは、あんまり人には話したくないかな。ひとつ言えることは、大切な人と迎える朝ってなんだか特別……っていうことくらい。
「おはよう」
そんなありふれた言葉が、こんなに胸をいっぱいにしてくれるなんて、思わなかった。
そうして、僕は信幸くんの秘密を知った。
最初のコメントを投稿しよう!