ご挨拶は、偶然に。

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ご挨拶は、偶然に。

「ん……むにゃ、んぅ、」 「おはよう」 「…………っ!? え、あ、お……は、よ……」  隣には首から下の、信幸くんの身体。  僕の腕の中には、幸せそうに微笑む頭。  ……なんか、まだ慣れない。ていうか、気恥ずかしいな……。そもそもここ、信幸くんの部屋じゃん。しかも身体に背中を抱かれて、頭は僕が抱いてるんだよ、なにこれ、信幸くんハーレム?  信幸(のぶゆき)くんの体温を隣に感じる朝はもう何度か迎えているはずなのに、改まるとどうしても直視できない。いや、服を脱いだ信幸くんも見慣れてるけどさ……、でも明るくなってから見るとまたなんか違うっていうか……?  眩しい、ていいますか、ね、なんか、あぅ。 「? 芽衣(めい)ちゃん?」 「…………いや、あの、うぅ」 「え?」 「いや、信幸くんって……いい身体、して、ま……す、よね……」 「…………えっ? は、えぇ? やめてよ、なんで急に敬語になるのさ」  信幸くんの声がぐぅ、と高くなる。身体の方もちょっと気まずそうに揺れ始めた。わ、耳まで真っ赤だ、可愛い……。信幸くんは僕を可愛いって言ってくれるけど、そういう彼が僕なんて及びもつかないくらい可愛い。  そんな愛らしくて、けどとても優しくてかっこいい人が、僕のところにいてくれるんだ――――その喜びごと離したくなくて、僕は信幸くんを抱き締める。……あったかいなぁ…………。  と、急にインターホンが鳴った。 「?」 「あ、今日たぶん宅配便頼んでるんだった」 「そうなの?」 「うん、確か……新しい圧力鍋」 「こないだほしいって言ってたもんね~」 「そそ」  料理男子の信幸くん的にはかなり胸の踊る商品だったらしくて、確か通販で見つけたとき、わざわざそのことをLINIE(リーニエ)でメッセージ送ってきてたっけ……。 「じゃ、僕出るよ。お金はもう払ったって言ってたもんね、受け取るだけ?」 「ん、ありがと、悪いね」 「いいよいいよ~」  今の信幸くんは首と身体が離れてるから……とかじゃなくて、単純に僕の方が信幸くんのシャツ借りて、ちゃんと肌が隠れてたから。そんな単純な理由で玄関に出たのは、たぶん寝ぼけてたからかも。  そんなとき、僕は衝撃の出会いをすることになる。 「は~い!」 「………………え、」  玄関先にいたのは、ひとりの小柄な女の人。たぶん年齢は50歳近くくらいで、なんとなく可愛らしい顔立ちをしている。そんな人が目を丸くして、何度も携帯と僕の顔を見ている。え、なに、怖い、どうしたの、この人? 「あのぉ……、」 「は、ひゃい!?」 「ここ、冨樫(とがし)信幸(のぶゆき)……の部屋、ですよね? あれ、間違えました?」  おっとりした口調で、だけど怪訝そうな顔をして僕を見てくるその人に困っていると、後ろから「え゛っ!」と声が聞こえた。  ドタドタッ、と信幸くんが走ってくるのが聞こえて。振り返った先では、首を抱えたままの彼が息を切らせていた。 「か、か、母さん…………!!!?」 「えぇぇ?」  母さん? 母さんって、あの母さんだよね?  急に、目の前に立っている女の人が、すごく大きくなったように見えた……。 「あ、あの、こんにちは……」 「はい、こんにちは」  あ、圧を感じるよぉ!
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