だるまさんが転んだ

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だるまさんが転んだ

僕は今でも覚えているよ。 二十年前のある日、確かとても寒い冬の日だったかな? 僕は公園で友達と遊んでいたんだ。 みんなも一度はやったことがあるよね。 ”だるまさんが転んだ”ってやつさ。 で、僕は鬼をやることになったんだ。 これが、いざやってみると、怖いのってなんの・・・。 よく晴れた日だったんだけどさ、僕が鬼になったとき、ちょうど雪が降り始めたんだ。 辺りが急に薄暗くなってきてね。 それでも僕は、セオリー通りにみんなに背を向けて、例の呪文を大きな声で唱え始めたよ。 「だーるーまーさーんーが、こーろーんーだ!」 それで振り返るんだ。 もちろん始めのうちはね、後ろから”やばっ”とか”止まって”とか、声が聞こえたもんで、バッと振り返っては、目を凝らして、動いている人がいないかどうかを必死に確認したよ。 でも、何回目だったっけな? 「だーるーまーさーんーが、こーろーんーだ!」 って具合に大きな声で叫んだんだけれども、何の物音もしないんだよ。 誰の声も聞こえない。 相変わらず、雪だけがしんしんと降り続いていてね。 本来なら、ここでバッと振り返るはずなんだけど、なんだか急に怖くなってしまったんだ。 振り返ったら、後ろには誰もいないんじゃないか、とか。 みんなが真後ろに迫ってきていて、僕が振り返るのを今か今かと待ち構えてるんじゃないか、とかね。 結局僕は、振り返れずに背を向けたまま、立ち尽くしていたんだよ。 しばらくは、そうしていたんじゃないかな? それでも後ろからは、何の音沙汰もない。 勇気を出して、振り返ろうと考えたんだけどね、やっぱり怖いんだよ。 後ろには得体のしれない何かが潜んでいるようでさ。 もしかしたら、自分だけどこか違う世界に飛ばされてしまったんじゃないか、なんてことも考えたよ。 後ろにはもう誰もいなくて、僕の知らない世界が広がってるのかもしれない。 この世界にはもう、自分以外誰もいないのかもしれない。 そう考えると、ますます怖くなってくるんだ。 いよいよ、振り返れなくなってくるわけさ。 金縛りにかかったみたいに、体が動かないんだよ。 何十分そうやって、立ち尽くしていたかわからない。 僕はひたすら、雪がしんしんと降り続いているのを眺めていた。 どうしようかと、悩んでいると不意に後ろから肩をたたかれたんだ。 それと同時にわっと大勢の声が聞こえ始めてね。 思わず振り返ると、一緒に遊んでた子の一人が僕の肩をたたいているんだ。 そう、つまり、いつもの光景なわけ。 僕はあわてて負けちゃったよ、なんて取り繕ったけど、あとからみんなに聞いてみたらさ。 みんな口をそろえて、何もおかしいことはなくて、僕は普通に 「だーるーまーさーんーが、こーろーんーだ!」 って言ってたって言うんだな。 じゃあ、僕の感じていた空白の数十分は、どこに消えたんだろうか。
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