星のもとで描く

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 遺書を残して死ぬなんてただ命を懸けた『かまってちゃん』にすぎない、と彼は言いましたが、ならば私もその一員になってやろうと思い、半ばやけくそに筆をとりました。私が志したのは絵の道でした。『人間失格』を著した偉大なかまってちゃん、太宰治氏に倣って小説家なら小説、絵描きなら絵を遺すことができれば作家冥利に尽きるものですが、そういうわけにもいかなくなってしまったので絵ではなく文として書きつけることにします。  この遺書もどきを書き終えるまでに、とあることが起これば私は再び絵を描くことができ、また生きる気力も湧くはずです。しかしその希望ともいうべき出来事、またそれがほぼ確実に起こりえないことを他人に説明するには、時間が必要なのです。飲みこめば喉に引っかかりそうな小骨を取り除き、噛みくだいた上でさらに噛みくだき、歯のない老人でもなんなく味わえるほどぐずぐずのどろどろにしなければなりません。時間の他に労力も必要です。根拠のある主張でさえ対立する他人に理解させるのは難しいのに、一歩間違えば妄言だとも言われかねない私の話を、どうすればより分かりやすくできるのでしょう。絵を描くためだけに筆をとってきた人生で文章の勝手がいまいち分かりませんが、とにかく、書いてみます。私が絵を描きはじめた理由と描けなくなった経緯、そして現状について。  ある女の子との出会いが、私を決定的に絵の世界にのめりこませました。はじめて彼女に会ったのは、早生まれの私が十二歳——小学六年生のときでした。……
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