星のもとで描く

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 若草色に憑かれていた。意識しているつもりはないのに、カーペットやカーテンはおろか、ティッシュケースやアクセサリーまで淡い緑色のものが多かった。何度思い返しても「よし、これだ」と決めた記憶はないのに、実体として緑が部屋に増えていく。買う時にも「あら、気づいたらまた緑のものを」とも思わず、いつだってそれを部屋に置いた瞬間に「緑だ」と気づくような感覚だった。今もまた例外でなく、ちゃっかり若草色のワンピースを身にまとった私が「またか」と半ばあきれた顔で鏡の前に佇んでいる。  大学進学を機に上京した私の根城となったのがこの六畳のワンルームだった。築十五年は経っているらしいが、鉄筋コンクリート造りということもあってか、すきま風に身を震わせることはあっても災害に耐えられなさそうだと心配することはまだない。ただ、時たま夢に見る。頑丈な部屋のなかで発狂して気が狂っている自分の姿を。入れ物に守られながら朽ちていく、中身である自分。ここ最近悪いことが続いていたせいでそんな夢を見がちなのだろうが、今日が悪夢を断ち切る日かもしれない。
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