長谷川さん

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洗濯機が動くような電子音が聞こえ、カップ蕎麦にお湯がたっぷり注がれます。 続いて二つ目のカップ蕎麦に手を伸ばし、お湯を入れていきます。 「……心臓に悪性腫瘍ができているのです。お医者さんには明日が寿命だと伝えられました。隠していてすみません」 コップとお箸、麦茶を用意して、さあ後はカップ蕎麦が出来上がるのを待つだけの状態に仕上げると、長谷川さんは再び僕の隣に正座しました。 ──もはや、完全に相手にされていません。 はい。この話は嘘です。ありふれた嘘ですよね。しかし、例え嘘であろうと、彼氏の命に関わる話題です。さすがに何か心配してくれる一言くらい、ほしいものです。 長谷川さんは、本当は僕のことなどどうでもいいと思っているのかもしれませんね。 再び、長い沈黙と共に、来年が静かに歩み寄ってくる気配が強くなります。 「……」 ──やれやれ。さて、今度はどんな話で沈黙を破りましょうか。 おせちの海老は、いつも皮を剥くのが難しいという話でもしましょうか。長谷川さんといるときは、いつも僕から話しかけなければ、会話が始まりません。もう何でもいいので、話しかけましょう。 「長谷川さん、おせちの海老ってどうしてあんなに……」 「本当なんですか?」 ところが、僕のどうでもいい話は、そんな長谷川さんの強い口調で打ち消されました。 いつもなら、物腰柔らかな口調で失礼なことも言ってのけるのに、様子がおかしいです。 「すみません、本当って、何の……」 「明日、死んでしまうって、本当なんですか?」 隣に座る長谷川さんの表情を覗いてみました。 長谷川さんは、じっと動かないまま、涙を流していました。
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