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マリウスは少し焦った様子で魔界へのゲートを開いたジュリアを止めに入った。
「待て待て! ファビエンが何を意図としてそれをしたのかは分からん話だろう? お前の息子だからこそ溺愛してるだけかも知れない」
「何? あの子を庇うつもりですか? いくらクリスが可愛いかろうが、私に何も言わずに下界に降りて来てクリスだけに会いに来るのもおかしな話でしょう?」
ファビエンは女淫魔である。彼女がサキュバスで無ければ、ジュリアもここまで反応する事もなかったが、クリスは幼いにしても男性である為にファビエンを下手に近づけるのは危険なのだ。
「しかしなぁ……」
「何ですか? あの子と個人的に何かあるのですか?」
「断じてそれはない! 俺は元勇者だぞ。俺に淫夢とかそういう類の魔法は通用しないのはお前だって知っているだろう? それにクリスを見てみろ」
マリウスが目配せすると、その先には不安そうな表情をして目尻に涙を溜めるクリスがいた。
「ごめんなさい……母さん……」
「あぁ、私の可愛いクリス。ごめんなさい、あなたのせいじゃないの。それにファビエンに怒っているわけじゃないのよ?」
我が子を守るつもりの行動が、我が子を泣かせてしまう事態になってしまった。ジュリアは、クリスを抱きしめて頭を撫でる。
「全く、お前はクリスに甘いな」
「あなたが厳しくしてますからね。私が逃げ道にならないといけませんから」
そんな厳しくしてないんだがな……と、小さくマリウスは言った。とりあえず、ジュリアはファビエンとの〝大人の話し合い〟をするのを止めた事に安堵する。
「奥様、この燃やしたブラッドハウンドについてですが……」
「完全に墨になるまで燃やした方が良いかしら?」
「いえ、私めがレメオルの森に埋めてきましょう。自然に返すのが一番良いかと存じます」
セバスチャンはブラッドハウンドだったものを軽々と片手で持ち上げると、ものすごい勢いでレオメルの森に向けて走り出した。
「凄いね、セバスチャン」
「ギルドランクSクラスに一番近いって言われた男だからな」
セバスチャン・クロフォード。現在はバードビッヒ家お抱えの有能な執事であるが、昔はとあるギルドでかなりの実力者だったらしい。
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