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人には言えない秘密がある。
とある森の中、ここには人が近づく事はない。その理由はこの森にある。第一級認定危険地域〝レメオルの森〟は足を踏み入れたら最後、絶対に抜ける事は出来ないと言われる危険な森である。
ギルドランクSクラスの者のみが、この森に足を踏み入れる事を許される。しかし、そのSクラスというのは簡単な話〝勇者〟と呼ばれる者のみが与えられるギルドランクである事を覚えていてもらいたい。
そんな森の中で何やら金属同士がぶつかるような鈍い音が何度も響いている。何者かが戦っているようだが、方や精悍な顔立ちをしている長身の男で、白髪混じりの髪の毛をポニーテールのようにしている。しかし、もう一方はと言うとその長身の男の半分程度しかない幼い子供であった。
「やぁっ! ていっ! はぁっ!」
「良いぞクリス! さすが俺の子だ!」
その幼い子供はクリスと呼ばれているが、その幼さにはまるで似合わない程の大きさの剣を振るっているのだから更に驚かされる。
「帰ったらっ! 母さんにっ! 僕の専用の剣を買ってくれるようにお願いしてくれるんだよねっ!」
剣を振り回しながらクリスがその長身の男に言うと、その男は口角を上げた。
「俺に一太刀入れられたらな!」
「入れてみせるさっ! なんてたって、僕は勇者の息子だからねっ!」
クリスの父親は〝元〟勇者である。名はマリウス・バードビッヒ。彼は約十五年前に勇者として世界の災厄と呼ばれた魔王を倒した。魔王亡き今は隠居し、とある女性と結婚しクリスが生まれた。
「クリス、別に剣を習う必要はないんだぞ。もう魔王はいないんだ。お前が次期勇者として戦う事は無いんだからな」
「母さんはそう言うだろうねっ! でも、僕は単純に強くなりたいんだっ!」
これも男という性に生まれたせいなのか。強くありたいと思う事に関して言えば、マリウスも止めるつもりはないが、まだクリスは九歳なのだ。これから年齢を重ねれば、自然と魔法学園に通って剣を習う事になるだろう。
しかし、自分が勇者をやっていた時とは違いあくまでも働く為の術にしかならないのだ。そして何よりも……。
(母さんに後で怒られるのは俺なんだよなぁ……)
我が息子の剣を受けながら、マリウスは小さくため息を吐いた。
「隙ありっっ!」
一瞬気を抜いたマリウスの動きを見逃さず、クリスは彼の懐に飛び込んだ。マリウスの半分程度の身長しかない幼い少年には飛び込みやすい懐であった事には間違いは無い。
だが、隠居したとは言えどマリウスは元勇者。そんな少年に遅れを取るような事も無く、覇気で彼を吹っ飛ばしてみせた。
「いだっ!?」
「甘いな我が息子よ」
勇者のみが纏うと言われる覇気を使い、クリスを吹き飛ばしたマリウスは少し大人気ないと言える。
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