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何を思ったのか、店主は目を瞑り腕を組んで小さく唸り声を上げながら上を向いたり下を向いたりを繰り返した。そして、少ししてから目を見開いて自分の胸を叩いた。
そんな様子を見ていたクリスは一瞬ビクついたが、その店主を注視する。
「よし、この剣をお前さんにくれてやる」
「あ、お待ち下さい。お金は払いますので」
店主とクリスのやり取りを見ていたジュリアだったが、店主が剣をただで渡そうとした事に驚いて口を挟んだ。
「いや、良いんだ。どうせこの剣は売れても売れなくてもどっちでも良かった代物だ。それに、これはもし折れたら直せる奴はいねえ」
「そうだとしても、普通の鉄や鋼で造られたものよりも高価な物ですから……」
母親であるジュリアとしては、子供に物をただで与えるというのは教育的にも良くは無い。しっかりと物を得るには対価を払うということを見せなければならないのだ。
クリスが自分でお金を払うわけではなく、父親であるマリウスの稼ぎがあるおかげで生活が出来ているのだと教えるという意味でも必要であると考えている。
「んー……じゃあ、坊主」
「は、はい!」
「お前がでかくなったら、俺にこの剣の代金を払いに来い。今回は、見る目があるお前に俺が今この剣を投資したって事で持っていけ。奥さん、それでどうだろうか?」
ジュリアにそう提案した店主。彼が引く気がないと感じたジュリアはその提案に頷くしかなかった。
「ちゃんとお礼言いなさい」
「ありがとうございます!」
「でけえ男になって戻って来いよ」
クリスは店主から剣を受け取ると頭を下げた。これでクリスは欲しかった剣を手に入れる事が出来たのだった。
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