50人が本棚に入れています
本棚に追加
剣を手に入れたとなれば、もうシャルトリーゼには用はない。親子は待たせてある馬車へ向かって歩き出していた。
「クリス」
「何? 母さん」
剣を大切そうに両手で持っているクリスに、ジュリアは彼に立ち止まるよう制止する。
「あなたが父さんと母さんの息子であることは誰にも言ってはいけません。いいですね?」
剣の声が聞こえたと店主にクリスが言った時、店主は間違いなくクリスが勇者の血族なのではないかと疑ったとジュリアは分かった。そう、今言ったのは〝勇者〟と〝魔王〟の血を引いているということを誰にも口外してはいけないと言ったのだ。
「え?」
「あなたは〝元〟とは言え、勇者と魔王の子供なのです。勇者だけなら良い。でも、私の血が入ってるとなると大きく事がこじれる事になりかねない」
「そんなっ!? 母さんが僕の母さんで僕は困ったりなんてしないよっ!」
そう言った愛する我が子を抱きしめる。さすが勇者の血を引いているだけはあるし、育て方も間違っていなかったと実感できる。
「あなたは本当に優しい子。でも、これは母さんと約束しなさい。これはあなたの為だけじゃない。お父さんと私とセバスチャンとライナーの為でもあるの」
我が子にこんな約束をさせなければならない事はジュリアとしても心がとてつもなく痛む。彼の将来を考えると、これだけはどんな事があろうとも秘密にしなければならない。
「分かった……」
落ち込んだ様子のクリスをもう一度抱きしめると優しく微笑む。
「さぁ、帰りましょう?」
今はまだ分からなくてもいつかは母の思いが分かる時が来る、そう信じながらクリスの手を引いてジュリアは歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!