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それから数時間、三人は屋敷の中で談笑した後帰っていった。それからまた一時間もしない内に、次はジュリアの側近だった現魔王であるファビエンと現在の三魔将がやって来た。
「お久しぶりにございます。ジュリア様」
「〝私とは〟久しぶりね、ファビエン。クリスには会いに来ていたみたいだけれど?」
一瞬、ファビエンの肩がぴくっと動いた。それを見逃す筈もないジュリアは眼を細めた。
「会いには行きました。が、ジュリア様の大切な御子息であるクリス様に何かあっては困りますゆえ……」
「へえ……。私に挨拶も無しにクリスだけに?」
ファビエンもまたミルベーレ同様に拗らせている。クリスが可愛くて仕方ないのだ。彼が勇者の血を引いているのは勿論彼女も知っている。勇者とは犬猿でもその子供は別の話。
ジュリアが思うあまり嬉しくない才能こそが、女たらしという才能であった。その父マリウスもまた女たらしだった。彼自身はそうではないと否定するが、ジュリアから見て彼の周りには女がよく集まった。
クリスはそれを奇しくも受け継いでしまったのだ。勿論、自分の子供が好かれないより好かれた方が良いに決まっている。そんな思いと息子を取られたくないという思いがひしめき合ってしまう。
「まぁ……それは……」
「……もう良いわ。後ろの三人もよく来たわね」
ファビエンの後ろに控えている者達は現三魔将は深々と頭を下げた。頭を上げた時、一人だけクリスを凝視している者がいる事にジュリアは気が付いた。
「クリスが、どうかしたかしら?」
「想像以上でしたので……」
彼の名はリュート。今彼が言った想像以上というのは、クリスの強さの話である。本当にこれが生まれてから十年程度しか経っていない少年の力なのか。
こんな小さな少年が、三魔将と呼ばれる自分と既に大差無い力を持っているなどと信じられる筈がない。と、今日初めて彼を見るまでは思っていた。
「だから言ったでしょう。クリス様は勇者マリウスとジュリア様の血を引いていると。あと数年もしない内に私もクリス様の足元にも及ばなくなる」
「ええ、凄い力をお持ちだ。ファビエン様がクリス様にご執心なされるお気持ちが分かります」
リュートはファビエンがクリスの力に魅了されていると思っているらしいが、実際は彼の力など持って生まれて当たり前程度にしか思っていないのをまだ理解出来ていなかった。
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