人には言えない秘密がある。

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 頬を膨らませ、拗ねたような表情をしながら立ち上がる。吹っ飛ばされた時に手から離れた剣を拾い上げて得意げな表情をしている父親を見る。 「そんな顔をしたとしても、母さんには通用しても俺には通用せんぞ息子よ」 「父さんは卑怯者だ。僕よりも強いのに覇気まで使うなんて大人気ないじゃないか!」  剣を鞘に収めながら語気を強め文句を言う。いくら現役を退いたとは言え、相手は元勇者である事に変わりはない。そんな元勇者である父親が息子相手にそこまでする必要があるのかとクリスは思う。 「戦いに大人も子供もないぞクリス。お前が俺に戦いを挑んだから俺はそれ相応の力を使ったまでだ」 「母さんに言うから!」 「そ、それは……」  マリウスの表情が得意げなものから一瞬にして固い表情へと変化した。クリスは父が母に弱いというのを知っているのだ。 「母さんに、父さんが僕に覇気を使ったって告げ口してやる!」 「ま、待て……。母さんには言わないでくれ。お前の剣に関しては父さんから母さんにちゃんと言ってやるからな?」 「約束出来るの?」  我が息子ながら恐ろしいとマリウスは思わざるを得なかった。九歳にして元勇者である自分を脅すのだ。その目は「分かってるよね?」と、語りかけてきているようだった。 「分かった分かった。男の約束だ」  一度肩を落としながら、クリスに小指以外の指を折り畳んで彼の目の前に出した。俗に言う指きりという行為だ。笑顔でその行為を受け入れたクリスから不意に剣を奪う。 「あっ」 「もう帰ろう。母さんが待ってるからな」  剣を取られ不満げな我が子に苦笑いを浮かべるマリウスだったが、かれこれもうクリスが剣を振り始めてから一時間経つのだ。 (ーにしても……とんでもない体力だ)  勇者であった自分の血を引いているとは言え、自分が彼くらいの年齢の時にここまで体力があったかどうかとふと考える。それに自分の身長と大差ない程の剣をまるで身体の一部かのように既に扱えてしまう彼の筋力にも驚かされる。 (ジュリアの血も濃く受け継いでいるって事なのか……)  魔法の手ほどきはまだ一度もした事はないが、既にこの幼い少年には体外に溢れる程の膨大な魔力が備わっている事をマリウスは知っていた。 「父さん?」 「あ、あぁ、すまない。じゃあ、帰ろうか」  マリウスはクリスの頭を一度撫でると、レメオルの森を抜ける為に歩き出した。  
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