人には言えない秘密がある。

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 母の作った料理に舌鼓を打ちながら、クリスはその横で同じく料理を頬張る父に目を向ける。その目からは「剣、約束」と強い意志を感じる。 「ジュリア」 「何ですか?」 「あのな……」    クリスと約束をしてしまった手前、それを反故には元勇者としても出来ないマリウスだったが、それをどう妻に切り出せば良いのかと心底困っていた。実際、ジュリアは剣の稽古をする事すら反対していたのだ。  勿論、魔法学園に行く事になれば剣だけではなく他の何か武器の扱い方を習う事になるのは間違いない。だが、クリスはまだ九歳。そんな幼い時から剣を振る必要など無いとジュリアは思っているのだ。 「何ですか? はっきり言ってくれないと分かりませんよ?」 「クリスに……剣を……だな、買ってやろうかと」 「はあ? 何故?」  予想通りの返事とジュリアの悪魔特有の金色の瞳の瞳孔が縦に細くなる。完全に睨まれる形となったマリウスは冷や汗を流す。 「いや、クリスももう来年は十歳だろう? そうなれば魔法学園の初等部に入学する事になるわけで、自身の剣を持っていても問題ないと思ってな」 「別に入学してからでも遅くないじゃないですか。それに、今はもう剣を持つ必要があるような物騒な時代じゃないって私言いましたよね?」  これは勝てる内容ではない、と息子へと顔を向けるマリウス。しかし、そんな息子は「覇気の事、言うからね」と父を睨みつける。 「クリスも男だろう? やっぱり、剣は欲しいと俺は思うんだよ」 「男の子だったら誰もが剣を欲しがると?」 「いや、そういうわけではないんだが……」  元勇者、元魔王にたじたじである。ジュリアはセバスチャンから出された紅茶を一口含み、それを嚥下するとクリスへと顔を向けた。 「クリス、剣が欲しいの?」 「うん……」  いつかはこうなるとジュリアも分かっていた。多分、クリスがマリウスに剣が欲しいのだと言ったのだろうとは察しが付く。自分に直接剣が欲しいと言えば首を縦に振らないと分かっていたのだろう。 「クリス、母と一つだけ約束しなさい。それを守れるなら剣を買ってあげます」 「約束?」 「私利私欲の為に剣を使わない事」 「しり……しよく……?」 「自分の欲望を第一に考えるという事です。あなたの今の段階の剣の実力は、あなたと歳が近い子や並大抵の大人では敵わないでしょう。それは分かっていますね?」  マリウスとほぼ毎日と言って良い程にクリスは剣の稽古をしている。それも七歳からだ。しかも、その練習相手は一般の大人ではなく元勇者。現段階で彼はもうギルドランクB級程度の魔物相手ならば一人で倒す事が出来る。それも魔法を使わずに。  息子が強くなるのは母としても鼻が高いが、今じゃなくて良かったのだ。後々、魔法学園を卒業するくらいまでにある程度強さを身に付けてくれれば良いと思っていた。  だが、そんな母の思いも虚しく彼は父親の影響を強く受けてしまった。勇者の血とは彼に勇猛果敢さを与えてしまうのだ。
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