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次の日の朝、屋敷から馬車で一五分程度走った所にある交易の町〝シャルトリーゼ〟へと母と共にやって来たクリス。本日の目的は勿論、自分専用の剣を手に入れる事である。
ここには港があり、様々な国からの物品が集まる。クリスのお目当てである剣も形から素材から様々なものがある為、どんなものがあるのかと楽しみにしていた。
「母さん! 見てよこれ!」
興奮しながらはしゃいでいるクリス。ジュリアも頬を緩めるが、それが剣で無ければと同時にため息も出てしまう。武器屋の店主も子供が武器を見てはしゃいでいるものだから少し困った様子だ。
「んー、坊主。これは子供が触るようなもんじゃねえぞ?」
ジュリアが保護者であると察した店主は少し困った顔をしながら彼女を見た。それにジュリアも同じく苦笑いを浮かべて返すしか無かった。
「申し訳ありません。この子は剣が好きで……」
「今時の子供にしちゃぁ、ちょっとませてるな……」
〝ちょっと〟と店主は口にしたが、それは保護者である彼女がいるからこそだ。正直な事を言ってしまうと剣に興味を持つ子供は見たことがないというのが店主の感想だった。
シャルトリーゼは四つの地区に分かれており、北エリア、南エリア、東エリア、西エリアとなっている。今クリス達がいるのは北エリアで武器や防具といった装備類を扱うエリアとなっている。
「まぁ……なんだ、坊主どれが良いんだ?」
いくら子供といえど客であることには変わりない故に無碍にもできない店主。目を輝かせながら剣を見つめる少年に一応聞いてみる。
「おじさんが扱ってる剣はどれもしっかり手入れされていますね! 特に、この剣は凄い!」
目上の人間に対する口の利き方にも驚かされるが、何よりも彼が指差した剣に驚きを隠せない。
「坊主、これが分かるのか?」
クリスが指差した剣。それはアダマンタイトと呼ばれる非常に硬い素材で出来た剣だった。加工が難しくこの素材を扱えるのは熟練のドワーフだけだと言われているが、そのドワーフも現在ではほぼ扱える者はいないと言われており価値が下落している。
その代わり、オリハルコンなどの他の硬い素材が現在では加工が難しいものの高値で流通している。
「この剣が僕に喋りかけてきたんだ」
「喋りかけてきた……?」
店主もジュリアにもクリスが言う事の意味が理解出来なかった。剣が人に喋りかけるなんて有り得ない。
「坊主、聞きてえんだが……この剣が喋りかけてきたってのは本当か?」
この武器屋の店主は昔、大切に扱う者に対して武器とは意思を持つ事があると聞いた事があった。しかし、それはとある血筋が関係しているのだと。
(まさかな……そんなわけがねえ……)
彼の頭の中にあったのは勇者の二文字だった。だが、勇者は魔王を倒した後忽然と姿を消したというのが世界が知るところだった。
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