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秘密
あの現場を見てしまって予想以上に疲れた。
少し贅沢だけどタクシーで帰ろうかなと迷っていたらスマホが鳴る。店の鍵を預かる店長から信頼の厚い先輩からだった。
あわてて出る。
「もしもし、お疲れ様です!」
『シュウ君お疲れ、今どこ?』
「え、、、っと、まだ街中です。タクシー乗り場の近くです」
『送るよ。何か予定あったらそこまで行くし』
仕事以外ほとんど話したことがない。でも先輩だし断りにくい。
「・・・じゃあお言葉に甘えていいですか?」
『すぐ行くから待ってて。じゃ後で』
5分もしないうちに先輩が着いた。うちの給料じゃ買えそうにないドイツ製の高級車。
「失礼します」
助手席に乗り込んでシートベルトをかける。
黒金メッシュの髪をしている少し異質な雰囲気の人でホストのほうが似合うんじゃないか。かっこよくてお客様にも人気だった。
「ごめん俺のミスだった。全員に連絡したと思ったんだけどテンパってて。ほんとごめん」
ということは店で行われる闇オークションの事を先輩は事情を知っているのか。
「怖かったです。俺あんなこと知らなくて・・・」
少しカマかけてみようと思った。苛立ちを先輩に当たるのも筋違いだが第三者の考えを知りたいと思っていたところだし事情を知っているなら手っ取り早い。
「時間あったら俺の部屋よってく?」
来た。口止めされるかな。
それならどこかの店でもいいのにどうして部屋に呼ばれるんだろう。
俺も消される?
「今エッジの従業員がうろうろするのは危険だからどこにも行けないんだ。でも酒でも飲まないとやってられないでしょ?」
「はあ・・・」
なるほど。
俺は動揺しているフリをして先輩に従うことにした。
来てくれた時と同じく5分くらいの所に先輩の住むマンションがあった。
クルマといい店の給料では借りられない高級マンション。株でもやっているのか店を掛け持ちしているのか謎だった。
俺が不思議に思っているのを察知して
「これが俺の口止め料」
エレベーターの中で先輩は無表情に呟いた。
この世界は底なし沼だ。全てを知った気になっていた自分が急に恥ずかしくなった。
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