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金で解決させるつもりならシンが稼いだ3千万が手元にある。
だが桐崎はそれに手を付けるつもりはなさそうだった。
しばらく沈黙が支配する。金子が何か考えている。ほかの連中は雑魚で本命はこちらの持つ金なのか。答えを引き出したい。
「お父様に聞きたかったですね」
その『お父様』はすでに死んでいる。
誰に殺されたのか。金はどこに行ったのか。
「俺たちはどう動けばいいです?」
スマホが鳴った。金子はディスプレイを見て
「掃除が終わったようです」
すぐ戻ることを伝えて通話を切った。
「お金はさっきの連中にいつもどおり持ってきてもらいます。事件の捜査は警察にまかせましょう」
そう言いながら伝票を持って立ち上がった。
「金子さんにごちそうになるのは恐縮です」
手に持つ伝票を両手ではさむように取り返して桐崎がレジに向かう。
はっきりした返答は聞き出せなかったが金子の考えはとにかく金が第一で浮かんだ死体も事件も興味はなさそうだった。
今までの登場人物すべてが大金を追いかけている。
事務所に戻ると薬剤のにおいが鼻についた。しばらくはよく換気して消臭剤も置こう。
決して安くはない清掃代金は金子が払った。
「新堂さんに関することには必死ですね、昔から」
清掃済みの床を確認しながら桐崎を指で軽くつつく。初めて金子の笑顔を見た。
「手は出しませんから安心してください。それを引き出したかったんでしょう?顔に出てます。怖い顔」
「かなわないですね。完敗です」
お互い全部わかってて応戦していたとすれば金子も桐崎も悪趣味だと思った。
同じ穴のムジナ。そんな言葉が頭に浮かんだ。
桐崎はシン、金子は金しか関心がない。
俺は明確に何が大事か特になかった。
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