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深い底
朝からパソコン画面を見続けて頭が痛くなった。
この前依頼された120飛ばれたホストの人探しの件。人生の勉強料にするか自力で探し出して回収するかそれくらいの根性で仕事しろよと偉そうに思いながらいろんなお店のホームページを見ていた。
キャバクラか風俗で働いていたら顔写真と出勤時間くらいは掲載されているはずなので俺はスマホに送られてきた顔画像だけをヒントに探す。
そんな日が数日続いたが収穫がないのでさすがにやる気がなくなってきた。夜になってこの前アリバイを証明してくれた店長の『睡蓮』に行った。俺が頻繁に出入りするのは迷惑だろうがこの前のお礼は言いたかった。
「ご迷惑をおかけして・・・」
「いいよ全然だいじょうぶ。俺以外にも店の従業員が証言してくれたから。あの日来てくれたのが幸運だったね。偶然に感謝だ」
俺は今探している女性の事を話題にした。
「出禁の店ばかりでタチ悪い客で有名だよ。飲み方汚いし最後は飛ぶだろ。そのうち殺されるぞってホスト界隈では噂になってるんだって」
「店長はその話どこから?」
「泉君。最近ホストに『転職』してね。よく来てくれるからもう少し詳しく聞いてみるよ」
あの日依頼、泉先輩とは会っていない。
「懐かしいですね。先輩元気でよかった」
パソコンとにらめっこしているより動いたほうが早かった。せまい世界だから良くも悪くもすぐ噂になる。だったら自分で捕まえられそうなのに。こちらはお金が入るので動いているが。
ここに来るまでも知らない人たちに何度も挨拶された。桐崎の部下くらいに思われているんだろう。
シンと桐崎も小さな仕事を片付けている。量が多いので俺まで動くハメになった。
「なんかシュウ君変わったね」
「そうですか?」
どこがだろう。自分はこの世界に来た時のまま何の変化も感じない。
変わったのは周囲だ。
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