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裏と表
世間知らずで好奇心が強いと道を外れる。
知りたいことが波のように押し寄せて、でも知ってしまうのが怖い。
何故この街で桐崎要を恐れる人間が多いのか。
難癖をつけながら逆らえない警察。問題が起きたら用心棒のように動き問題を
解決する、それはどんな魔法なのか。
いつも傍らから離れない新堂一(しんどうはじめ)、エッジの店長山中成実。
俺だけが知らないみたいで疎外感がする。
いつだったか店長が「まだ染まっていない、いつか帰してあげたい」と言っていた。俺は昼の世界に帰るつもりは全くないのにここは受け入れてくれないのだろうか。
「3人は幼馴染で同級生、それだけだよ」
疑問が顔に出ていたのか、ほかの従業員を帰して二人で閉店の片付けをしている時店長が呟いた。
「俺とシンに会わなければ桐崎は道を外さなかった。悪かったと思ってる」
桐崎は大物政治家の次男で、大学卒業までいっている。
店長と新堂は高校中退で夜の世界に入っていった。一攫千金を目指してホストになり、ナンバーに入る程度には行った。
お坊ちゃま育ちの桐崎には不良が珍しかったのか、中学からよく一緒に遊んでいた。といっても未成年で酒、タバコくらいでどこかの組織に入るわけでもなく、緩く遊んでいただけ。
まわりは桐崎のバックにある権力が怖くていまだに忖度されている。たまに喰い付いてくる怖いもの知らずもいるが新堂も桐崎も有段者だし暴力と権力を背景に持つ二人に逆らう馬鹿は減った。
だからそこにいるだけで相手が降参する。
ホストとヤクザは水と油、よく女絡みで店に怒鳴り込んできた。その時の喧嘩で新堂をかばって相手が振り上げた鉄パイプが桐崎の右目を潰した。
その相手がどうなったか誰も知らない。
傷は脳までは達していなかったので入院して癒えるのを待つしかなかった。
「シンは病室で泣くばかりで、このままだと衰弱して死んでしまうんじゃないかと思った桐崎が自分の実家に連絡して彼を無理やり引き離した。治ったらすぐ迎えに行くから落ち着けって、俺と前の店のオーナーと桐崎家の秘書さんたちで説得してやっと二人を離したんだ。あの時は大変だったよ」
退院した桐崎は実家に保護されていた新堂にすぐ会いに行った。
「俺やオーナーも行ったんだけど、桐崎は変わった。シュウ君が見てる今の奴だ。何も語らずあの雰囲気だろ。バックに巨大な力があってもなくてもみんな恐れるさ。それまでは明るくて無邪気ないい奴だったんだよ。信じられないだろ」
そして変わったのは桐崎だけではなかった。
「罪悪感なのかシンも変わってしまったな。良い人を演じるのは昔から上手だったけど、今のシンなら何でもやるよ。正直反社なんて可愛いもんだ」
店長がこの店を始めた頃からなんとなく用心棒のような存在になって、街の相談事を持ちかけられることが多くなり、店の隅に陣取って仕事を待っている。
「俺の店はあいつらのリビングじゃないんだけどな・・・」
事情を知っている店長は何も言わない。
「こういうものを背負う前にシュウ君は昼に戻ったほうがいい。桐崎のように好奇心で足を突っ込んで大怪我する前に」
暗に店を辞めろと言われているのだろうか。
でも人に言われて人生を変えることができるなら誰も苦労しないだろうな。
「考えときます・・・」
今言えることは、夜の世界は居心地がいいということ。
「でも俺、昼に戻ったらニートですよ」
どうしても馴染めない、トンビが鷹を生むことはないと思う。
血の因縁はすでに背負っていた。
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