裏と表

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その日は雨が降っていた。 こういう時は頭痛がする。 桐崎さんも古傷が痛むのかな。 「今夜は桐崎さん達、来ないですね」 礼二がつまらなそうに言った。 「早い時間帯が忙しくなるぞ。ほかの店もヒマだろうから」 店長が在庫を確認している。予想どおり23時をすぎた頃から早上がりした女性陣がぽつぽつ来店してくれた。 「いらっしゃいませ」 おしぼりを出しながらこの人のボトルを探す。 「ねえ礼二出勤してる?」 「はいいますよ。裏にいますけど呼びましょうか?」 がたん!と勢いよく立ち上がり「礼二!!」とものすごい剣幕で叫んだ。 だるそうに礼二が出てくる。 「あんたいつになったらツケ払うのよ。そろそろ締日なんだからいい加減にしてよ!」 美人は怒っても綺麗だな、とシュウは呑気に思っていた。 「ゴメン忙しくて。休みの日に必ず行くからもう少し待ってて。お願い」 「いますぐよ。もう待てないわ」 「今日は持ってないよ」 「いいわここでカタメに電話する。彼にシメられるか私に謝るか、どっちがいい?」 こういうトラブルを解決するのが桐崎さんと新堂さんなのか。大変だな、と思いながら俺は礼二を見ていた。 店長が騒ぎを聞いて出てくる。 「こいついくら?」 「300万」 「そこまで許したのが悪いんじゃない?よっぽど信頼してる子ならわかるけど売上に焦った?」 「なんで私が悪者なの。悪いのは礼二でしょ!」 閑散とした店内で言い合いはエスカレートしてきた。 「今日は電話がひっきりなしだねえ」 シンは自分のマンションでスマホのバイブ音を聞きながら無視している。大きめのソファに座ってぼんやりテレビを見ていた桐崎が横になった。 「痛い?」 前髪を梳いて無くなった目をじっとみつめる。 「・・・ごめんね」 涙目になっているシンの指をそっと離して 「泣くくらいなら見なければいいのに」 二人きりの時は饒舌になる。この年になって人見知りもどうかと自分でも思うが、シン以外誰も信じられない。 「シン、酒、飲みすぎ」 「お互いね」 外ではほとんど飲まないがこの部屋では飲む。仰向けに寝転んだ桐崎に重なってシンがすすり泣く。 「どれだけ飲んだ?」 桐崎の問いかけにシンは貪るようにキスをした。 「これくらい」 「酒の味しかしない」 桐崎は反転してシンの両腕を拘束してソファに押さえつける。 「飲みすぎ」 「部屋ならいいじゃん。俺と要しかいないんだから」 シンはこの間噛まれた首筋を見せた。 「この部屋ならいくらでも噛んでいいよ」 跡はほとんど消えていたがシンの挑発に乗る形で桐崎はそこを舌で舐めた。 大きめのTシャツの中に手を入れて膨らみを指で転がす。甘く鳴いて背中に腕を回してきたシンに 「飲みすぎ」 脇腹をなでると苦しげに眉をひそめて逃げようとするのを押さえてズボンの中に手を入れた。 「そんなに俺が欲しい?」 「・・・うん」 「償いのためなんて考えてないよね?」 「少し考えてる・・」 その答えに不機嫌になって全てを脱がした桐崎は片足を肩に乗せてむりやり突っ込んだ。 「いっ・・・、ぁ」 「俺は意地悪だよ」 「・・・知ってる」 顔を近づけて深く押し込むとシンの体がのけぞった。 桐崎の顔を見ると髪が下に垂れて無くなった目がはっきり見える。 「これ見て中を締め付けんなよ」 「・・・ごめん・・・なさ」 「いまからごめんなさい禁止。変わりに好きって言って」 桐崎の動きにまるで魂のない人形のように揺さぶられながら無意識に指を噛んでいた。 「好き・・・、要・・、好き・・・。す・・き・・・・・」 蕩けるような表情で何度も言うシン。 桐崎が言わなければずっと「ごめん」と言い続けただろう。 それが可愛くて、申し訳なかった。 スマホのバイブ音は続いていた。 何度目かの絶頂の後、気を失ったシンからゆっくり離れてスマホを手に取る。 画面にはナリとマダムの着信履歴が無数に残っていた。 「礼二が客を殴って外は血だらけだ」 録音には動揺しているナリの声が入っている。今から行ってもすでに警察が来ているだろうと思いながらテレビをつける。 案の定ニュースで傷害事件として報道されていた。 『こういう時のためのお前だろう!』とナリから詰め寄られるのが面倒だと思って折り返さなかった。
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