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「設楽君はさ、若いのにしっかりしてるよね。担当になってくれて助かったよ」
「いや、そんな。まだまだ至らない点が多くて、迷惑かけてばかりで」
「そんなことないよ。こっちが言ったことには応えようと頑張ってくれて、一生懸命でさ。俺も見習わなきゃいけないなって、思わされた」
史人は、控えめに首を振るのが精一杯だった。
褒められることに慣れていないので、面と向かって言われると照れてしまう。
「きっと、B社さんの新人教育がしっかりしてるんだね」
泉の言葉に、史人はさらに力強く首を横に振った。
先輩は馬鹿部だし、課長はデブだし、部長はハゲだ。
「他社とも付き合いはあるけどさ、やっぱり設楽君の——B社さんを一番、信頼してるんだよ。ここだけの話」
史人は俯きながら、ふたたびビールジョッキの持ち手を握りしめた。
自分が頑張れるのは——泉がいるからである。
史人の勤めるB社では、主に日用消耗品の卸売業をしている。
営業部では、小売店への営業活動のほか、A社のような販売元となるメーカーに、商品についてヒアリングしたり、ときには一緒に販売促進のための企画を考えたりする。
泉は若い史人にもフラットな目線でアイデアを求めてきてくれたから、それに応えようと頑張れたのだ。
歯磨き粉を売るために2人で考えた企画の店頭展開がうまくいったときは、はじめてやりがいや達成感を感じた。
「俺も、泉さんと一緒にできて、初めて仕事が楽しいなって思えたんです」
「なんか照れるね。でもありがとう」
それからは——しばらく仕事の話をした。
その間だけ、史人は安心して会話に臨めたが、途中で鍋が運ばれてきて、ふたりの会話は中断されてしまった。
予約時にコース料理を頼んでおいたから、こっちのペースにかまうことなく、どんどん運ばれてきてしまう。
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