取引先のあの人

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洗面所で顔を洗うと、いくらか邪悪な熱が冷めていくようだった。 こんな賭けじみたこと、するんじゃなかったかな。 園部は2軒目に行きたがっていたし、泉もそれに付き合うかもしれない。 それならそれで、これまでだ。 いや、たとえどうなったとしても、泉とはどっちみち、これまでだけれど。 史人は、洗面台に座って来客を待った。 3分だけ待ってみよう。 自分の気持ちが持続するのもせいぜいそれまでだ。 しかし——史人には確信があった。 泉の目を見ていればわかる。 事実、1分と経たぬうちに、足音が近づいてきた。 そして、その足音の正体にも、妙な確信があった。 ドアが開く。 扉の向こうに立っていたのは——やはり泉だった。 史人は足をぶらぶらと揺らしながら、眼鏡を外して、洗面台に置いた。 「入らないの?」 首を傾げると、泉はもう欲望に飲み込まれてしまったかのようだった。 中に入り、鍵を閉めると——そのまま史人の唇を奪った。 「ん、ぅ……っ」 ジャケットを脱がされ、シャツのボタンを外される。 泉の動きはさっきよりも余裕がなくて、慌ただしい。 しかしそれは史人も同じだった。 じっくりと嬲られ、徐々にのぼりつめていくのではなく——焼けつくほどに一気に燃え上がる。 そんな情欲に取り憑かれていた。 「あぁ……っ」 服越しに熱の中心にふれられて、つい声がもれてしまう。 泉の手つきに、ためらいはなかった。 それどころか、史人が甘い声を漏らすたびに、息が荒くなっていくようだった。 「泉、さん……っ」 服越しに撫でられるのが焦ったくて、身を捩ってみるが、泉はやめてくれない。 求めるような史人の反応をじっくりと見ては、それに興奮しているようだった。 史人は首に抱きついて、そっと耳打ちをした。 「ちょく、せつ……触ってっ」 泉が喉を鳴らすのが、はっきりとわかった。 次の瞬間にはベルトを外され、下着ごと服を剥がされてしまう。 そして、泉の筋張った大きな手が——史人を捉えた。 「あ、あぁ……んっ」 すでに先走りの液で濡れていて、扱かれるたびに強烈な快感が襲ってくる。 今、史人を操っているのはまぎれもない泉だ。 ずっとふれられたいと思っていたこの手が、今——— 「はぁ……あっ、はっ」 「すごい……設楽君のここ」 扱かれるたびにクチュ、クチュと湿った音が鳴る。 史人は泉の首に腕を巻き付けながら、キスをねだった。 口腔内をねっとりと攻められ、下半身を扱かれて——史人は泣きそうになった。 「も、う……あぁっ、泉さんっ」 いかせて。 ほぼ懇願するように耳打ちすると、泉はラストスパートをかけるように手の動きを速め、史人を煽った。 いく。 いくいくいく——— 頭の中がその言葉で埋め尽くされ、余白がなくなった瞬間——史人は体を震わせて放出した。 誰かに先導されて射精をするのは久々で、呼吸が整うまで、しばらくその余韻に浸っていた。  
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