取引先のあの人

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「はあぁぁぁあ!?」 いつになく「あ」を連発しながら、優太はベッドから起き上がった。 史人はジャケットをハンガーにかけ、消臭スプレーを吹きかけながら、その声を背中で受け止めた。 「だって、仕方ないじゃん……」 シェアしている部屋は2DKで、共有スペースは一応、ダイニングなのだが、彼はたまにこうして史人の部屋を訪れる。 「仕方なくないじゃん。だってお前、ずっと同じ店にいたんだろ。どこでやったんだよ!」 「トイレ」 メガネを外して乱雑にベッドに放り投げると、優太は体をそらしてそれを避けた。 そしてわざとらしいため息をひとつ落とした。 「お前さぁ。やめろって。いい加減さぁ、そういうの……」 ペットボトルの蓋を開けて水を飲む。 口の端からこぼれた水滴を指で拭うと、史人は床に座った。 「ベッド以外のほうが燃えるじゃん。鏡の前でやったの初めてだったんだけどさ、いいね。あれ」 優太はこめかみを押さえながら黙り込んでいたが、やがてベッドの上にあぐらをかくと、顔を上げた。 「今に訴えられるぞ。店からも、奥さんからも」 「えー、それはやだなー」 「じゃあもう既婚者はやめろ!」 曖昧に笑って返事を濁すと、足蹴りが尻に飛んできた。 「ちょっと、今は尻はやめろって」 焦る史人を見て、優太はにやりと笑った。
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