取引先のあの人

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泉との再会は、史人が予想していたよりもずっと早くにやってきた。 あれからちょうど1週間が経ったころ、「後任が決まったので引き継ぎをしたい」という連絡をもらったのだった。 憂鬱でたまらなかったが、仕事なら仕方がない。 ——あれから2回ほど、仕事用のスマートフォンに着信があったのだが、史人はあえて出なかった。 仕事の用事ならばメールでも来るだろう。 すると、しばらく間をあけて、本当にメールが届いたのだった。 ——打ち合わせで会った泉は、表向きは史人とそうなる前と同じだった。 しかし、目の奥にあるものは異なっていた。 逃げる史人を捕らえようとばかりに、執拗に見つめてきた。 「後任の高木です。よろしくお願いします」 高木は、地味で若さだけしか取り柄のない、冴えない女性だった。 おそらく、これからの訪問頻度は減るだろう。 この、やや濃いブラックを飲む機会も、しばらくはないかな———— カップの半分ほどを飲み、テーブルに置いた。 表面上のビジネストークや当たり障りのない世間話をしばし繰り返すと、もうすることがなくなって、史人は壁時計に目をやった。 泉は、史人の挙動を見逃さなかったらしい。 史人が立ち上がるより先に——高木に声をかけた。 「高木さん、別案件で、ちょっと設楽さんと打ち合わせたいから、先に戻っててくれるかな」 ——やられた。 史人は天井を仰ぎ、なんの疑いもなく去っていく高木の背中を名残惜しそうに見つめた。 頼む。残ってくれ。 だいたい、別案件っておかしいだろ。 残れえぇぇぇ!!! ——願いも虚しく、扉が閉まった。 思えば、この部屋に入ってきたときから違和感はあったのだ。 いつもならば、打ち合わせはフリースペースで済ませるのに、今日に限ってはこの小窓すらない会議室に通された。 しかも、なぜか内鍵付き。 しかもしかも、鍵閉められちゃってるし! 焦る心のうちを悟られないように、史人はテーブルの上で手を組み、にっこりと笑った。
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