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「俺のことを知りもしないのに、よくそんなことが言えますね」
「だから、これから知りたい。史人の全部——」
唇を指でなぞられる。
それが口角まで達するのを待ってから、史人は口を開いた。
「知るほどのこともないですよ。つまらない人間です」
「史人……」
「俺はただ、泉さんとしてみたかっただけ。それ以上の感情なんてないんです。園部の言う通り——ただのふしだらな男ですよ」
そこまで言うと、床に強く押し付けられた。
彼の目は怒りに満ちていて、普段の穏やかさからは想像ができないくらいに鋭い。
史人はそれを見て、不覚にもぞくぞくしてしまった。
「嘘だ、そんなの」
「嘘じゃないです。俺はこういう人間だから。あなたには、セックス以上のものは求めていません」
きっぱり、淡々と言ってしまうと——泉は絶句した。
打ちひしがれている間に立ち去ろうと、体を起こそうとするが、泉の腕の力は弱まらない。
「あっ」
シャツを引き裂くようにして、開かれた。
それを目で追う間もなく、キスが降ってきた。
「ん……っ」
コーヒーの苦味が、口いっぱいに広がる。
それに身を任せていると、やがてベルトを外す金属音が鳴って、史人は慌てて顔を離した。
「だめ、ちょっと——」
言い切らぬまま、ズボンを下ろされ、直に触れられた。
「半勃ちだよ。本当にだめなの?」
泉が、意地悪に笑った。
だめじゃない。
むしろ、いい。
でもここは取引先の会議室で——下手したらクビになりかねない。
「だめ……誰か、きたらっ」
「この部屋、2時間おさえてるから」
泉は淡々と言うと、史人の両脚を開いた。
蛍光灯の下で開脚させられて——羞恥のあまり、視線をどこに向けたらいいのかわからない。
腕で顔を隠した。
「やめてください」
泉は答えない。
腕をずらして盗み見ると、泉は史人の体をまじまじと見つめていた。
そして、自らの唾液で指を濡らすと、史人の尻に滑らせる。
「うっ……」
痛みに顔をしかめたが、それも一瞬のことで——いい場所をすぐに探りあてられてしまう。
「あぁ、は……ぁっ」
「何人の男がここに入れたの?」
史人は首を振った。
純情を踏みにじられ、泉は怒っている。
指の動きは乱暴で、前にも触れてはくれない。
焦ったくて、自ら手をのばすと、ふたたび床に押し付けられてしまった。
「触ってほしかったら教えて。史人の本心——」
泉はまだ、史人が強がっていると思っているらしい。
どうやらこの男にとって、恋愛感情とセックスはふたつでひとつらしいのだ。
だが、自分は違う。
「あなたの体以外に、興味はありません」
トーンを変えずに言ってしまうと、泉は一瞬、凍ってしまったかのように動かなかったが、次の瞬間にはぞっとするほど冷たい目になった、
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