取引先のあの人

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「でもさ、既婚者狙ったら、その陰でひとりの女が涙を流すんだよ?」 「女泣かせのお前にだけは言われたくないよ」 睨み付けると、優太はいたずらっぽく笑った。 幅の広い二重に高い鼻、上半分は美しいつくりだが、薄くて口角が上がっている唇はどこか可愛らしい印象だ。 そして、身長は180cm。 ————まさに、女にモテるために生まれてきたといっても過言ではない容姿だ。 「泣かせてないよ。最初から『遊びだよ』って意思表示するもん。俺は」 来る相手は拒まないが、特定の彼女を作らない。 それは高校時代からずっと変わらなかったが——寄ってくる側も優太のスタンスを受け入れた上で来るらしく、大きなトラブルにはなっていないようだった。 一方——対人関係においては、史人も似たようなものだった。 昔からなぜか、色恋の面では苦労しなかった。 優太と異なる点は、言い寄ってくるのは不特定多数ではなく——史人がいいと思った相手のみに限定されていたこと。 そしてその相手が必ずストレートの男性で、既婚者ばかりだったということだ。 「俺だって、付き合おうとか、略奪しようだなんて思ってないよ。ただ……」 「ヤリたいだけ?」 「そんなことは……」 表面上、一応ためらっておくが、そんなことは。 大ありだ。 史人は誰とも深い関係になりたくはなかった。 体をつなげたい男なら山ほどいるが、心をつなげたい男などいない。 ただ、中には心までつなげたいと願ってくる相手もいた。 その度に優太にヘルプを求め、仲裁に入ってもらうのだった。 「また包丁突きつけられて軟禁されても知らねーぞ。俺はお前のSPじゃねーんだから」 ややわざとらしいくらいのため息を吐くと、優太はふたたび椅子にもたれかかった。
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