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——3年前、まだ史人が大学生だったころ、体の関係をもった男性に「別れるなら死ぬ」と言われた。
別れるもなにも、付き合ってないですよ。
その一言に逆上した相手は、ラブホテルの一室に、史人を軟禁したのだった。
——包丁のおまけつきで。
大事にしたくなかったので、隙をみてスマホで優太にヘルプを頼んだのだった。
その時、寿命を縮めて以来——優太は懲りているらしかった。
事あるごとに、彼は史人に向かって
既婚者は狙うな。
既婚者と酒を飲むな。
と忠告した。
また、眼鏡をかけろとアドバイスしたのも優太だった。
ガリでヒョロ、顔もこざっぱりとした自分がなぜモテるのか——最初は史人自身もよくわかっていなかったが、次第に、自分の「目」がいけないのだと、自覚するようになったからだ。
かつての愛人たちに、ベッドの上でよく言われた。
「この目が、いけないんだよ」と。
それを優太にさり気なく話したら——就職祝いにこの伊達眼鏡をもらったというわけだ。
史人は社会人になってから、眼鏡をかけて本来の自分らしさを消し、飲み会は極力避けて過ごしてきた。
もはや修行だ。
禁欲を強いた本人は遊び回っているのだから、なんとも理不尽な話である。
——しかし、包丁籠城事件でできた、優太の手のひらの切り傷を見ると、文句もいえないのだった。
「この前は無事だったからまだよかったけどさ。いつか刺されて死ぬぞ。このままじゃ」
「別にいいよ。俺は。人生、太く短く、で」
守りたいものもない。
築いていくなにかがあるわけでもない。
長く生きる意義も見出せないのだ。
「太く短くって、お前。アレの好みじゃないんだからさ」
「いや、アレは太くて長いほうがいい」
優太は手を叩いてひとしきり笑った。
笑いの波が引くと、だらしなく背もたれにかけていた体を起こし、テーブルに前のめりになった。
「とにかく、ヤるなよ。わかった?」
またしても禁欲を強いられて、史人は唇を尖らせた。
「うるさい。じゃあお前がやらせろ」
足蹴りすると、優太はまた笑った。
「いやー、お前にわけるセーエキ、余ってないんだわ。悪いけど」
「いいから早くチンコ出せ」
足蹴りをさらに数発お見舞いすると、優太はまたしても大笑いした。
こうしたやりとりは2人きりの時にだけよく繰り広げられる、気軽な冗談だった。
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