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きつねのうさぎ
妹うさぎは、姉うさぎからのおてがみをたのしみに毎日まっていました。
あしが不自由なため、姉うさぎに会いにいけません。
ちいさいころに、高い木にのぼり足をすべらせ
おおけがをしてから歩けずにいました。
あめがふっても、かぜがふいても、ゆうびん局のやぎさんがくるのを
こころまちにしているのでした。
きょうもごご2時 ポストのまえにくるまいすをとめて
姉うさぎのおてがみを待っています。
「まだかなぁ」
きのうのおてがみには、庭にうえたにんじんが食べごろで
うちの子たちがよろこんでかじっている、と書いてありました。
それを聞いて、こっちのにんじんもげんきにそだっていることを
お返事にかきました。
そんなたあいもないおはなしを、ふたりでやりとりしているのでした。
きのうのおてがみをよみかえしているところで、
ききぃ!
と、じてんしゃが止まるおとがしました。 やぎさんです。
「あ! やぎさん。 きょうもおつかれさま!」
いつもどおり、あいさつをします。
「いもうとちゃん」
なぜだか暗いひょうじょうで、妹うさぎを見つめました。
いつもはおてがみをすぐに手わたししてくれるのに、
きょうはなにやらようすが変です。
「どうしたの? やぎさん。 そんなかなしい顔をして」
「それが…きょうは、おてがみがとどいていないんだ」
「そうなの…。 ざんねんだけど、きっといそがしいんだわ。
やぎさん、わたしのおてがみあずかってくれる?」
「これはだいじに、おとどけするよ! そんな気をおとさないでおくれ」
やぎさんが、妹うさぎのおてがみを大切にしまうと、
ふたたびじてんしゃをはしらせて行きました。
妹うさぎはそんなやぎさんのせなかをずっと、ながめていました。
ゆうしょくご、妹うさぎは姉に会えないのをもどかしくおもいつつ
おてがみをかきました。
姉さまがこの村をでてからというもの
わたしは まいにち まいにち
姉さまのしあわせをお星さまにねがっています。
ぺんをおくと、まどから夜空をみあげました。
姉うさぎもおなじくこの空をみていてほしい
妹うさぎはそうおもいました。
その日いこう、ぱったりと姉うさぎのおてがみが来なくなりました。
2日目は、おとなりのおうちのりすさんが「あしたはきっとくるよ!」と言ってくれました。
3日目は、やおやさんのしかさんが「きながにまつのがいちばんさ」と
言ってくれました。
5日目は、おせわがかりのとりさんが「いそがしいんですよ」と
言ってくれました。
きょうも妹うさぎが「おてがみは?」と言うと、
やぎさんが首をふり 姉あてのおてがみをうけとる
それが1週間つづきました。
次の日。
妹うさぎは 荷造りをしていました。 姉に会いにいこうというのです。
くるまいすにリュックをくくりつけて、うごきやすいように工夫しました。
「姉さまに、なにかがあったんだわ」
もういちど 確かめるようにきゅっとむすびつけ、おうちをでました。
ぎぃ ぎぃ
荷物のせいでいつもより重いせいか、
くるまいすのすすむ音がきしんできこえます。
まっすぐの道をすすんでいると、うしろから おーい と
よぶ声がきこえました。
ふりかえると、ゆうびん局のやぎさんです。
「妹ちゃん、そんな大荷物をもってどこにいくんだい?」
「姉さまのところよ」
「険しいがけはあるし、肉食のどうぶつたちがうようよいる野原がある。
わるいことをいうようだけど、そこをこえるのはむりだよ」
「それでも、こんなに長い間おてがみがとどかないなんて おかしいもの!
およめさんになって、このむらを出て行っても
まいにちのおてがみでつながっていたのに とおくはなれていても…」
妹うさぎは姉うさぎをおもって、なみだをながしました。
それをくるしげにみつめるやぎさんが、
言いづらそうにことばをしぼりだしました。
「きみのことをおもって かくしてたんだ。 わるくおもわないでくれ」
「かくしてた? なんのおはなし?」
「じつは、1週間まえに あの村がきつねの被害にあったんだ。
ほとんどの村人がぎせいになってしまって…。
おてがみがこない理由がわかるだろ?」
「そんな…姉さま」
妹うさぎは、やぎさんのこたえがすぐにわかりました。
やはり姉うさぎに、なにかあったのです。
ぼうぜんとじめんから目をはなせずにいました。
そのようすをみて、やぎさんが妹うさぎをなぐさめるように
ながいおひげをすりすりさせました。
「みんな、いつかは話さないと とおもってはいたんだ」
「…みんな?」
やぎさんのほうへ ひとみをむけました。
「りすさんも、しかさんも、とりさんも、村人みんな
きみを守っていたんだ。
くるまいすのきみは、
むこうの村のうわさをみみにすることはないからね。
あんなに毎日まちどおしくしている妹ちゃんをみていたらはなせないよ」
やぎさんはしんじつをはなし終えると、妹うさぎの反応をしずかにまちました。
姉さまはもういない
みんなはほんとうのことをはなさず
まいにちまいにちおてがみだけをたのしみしているわたしを
遠くから笑っていたんだわ
あるけず、かぞくもいない、とてもみじめな子だと
みんな うそつき
うさぎは、くるまいすのよこにあるリュックからこっそり
刃物をとりだしました。
それをためらいもなく やぎさんのくびもとに突きさしました。
「妹…ちゃん…」
「やぎさん、ほんとうはおてがみ食べてしまったんじゃないの?
こまっちゃうな」
やぎさんはちからなくたおれて、それきりうごかなくなりました。
妹うさぎは、つぎにおとなりのりすさんのおうちにいきました。
「やぁ、うさぎさん。
いまちょうどおひるにしようかとおもっていたんだあ。
よかったら、いっしょに」
にこにこしたりすさんに、刃物をつきたてました。
「うそつき。 まるできつねね」
妹うさぎは、つぎにまちのやおやさんにいきました。
「これは、うさぎさんじゃないか。
きょうもしんせんなやさいがとどいたよ。
きっとすごくおいしく」
うれしそうにはなしかけてきた しかさんに、刃物をつきたてました。
妹うさぎは、つぎにじぶんのおうちにかえりました。
とりさんが、おそうじしています。
「うさぎさん、おさんぽでもしてきたんですか?
きょうはてんきがよくて」
とりさんに刃物をふりかざしましたが、とっさにかわされます。
「どうしたんですか! うさぎさん」
「みんなも、うそつき。 わたしも、ほんとうはうそつきだった」
そう妹うさぎがいうと、くるまいすからすっと立ち上がり
とんで逃げたとりさんに刃物をつきたてました。
「姉さまとずっと、いっしょに暮らせるとおもった。
あるけないと、ずっとちかくにいてくれるとおもってた。
でも、わたしとのしあわせよりむこうの村にいくことをえらんだ」
とりさんは、うごかなくなりました。
「わたしも、きたないきつねだった」
とある村に、あるうわさがひろまりました。
村のどうぶつ一匹のこらず ころされてしまった と。
そのおはなしをきいた、こどもづれのうさぎがいいました。
「さいきんの肉食どうぶつは、ほんとうげんきね。
わたしたちもひとごとじゃなかったけれど、にげきれてよかった。
ようやくおちついたし、妹におてがみを書かなくちゃ。
きっと心配しているわ」
おもそうな買い物ぶくろをもちなおし、
きょうの晩ごはんをなににしようかかんがえながら
あたらしいおうちへかえっていきました。
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