33.待つ狼

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33.待つ狼

 匂い。息遣い。美しい瞳。輝く肌。神々しささえ感じる気配……。  ガンマの森を歩きながら、まだ身近に感じるそれに、ぼうっとしたまま歩いていた。 「おいベータ……じゃない、ええと……」  番のいるルウが声を掛けてきた。心配そうな匂いがする。  気づけばガンマの森へ至る辻まで来ていた。 「とにかくおまえ、どうした」 「……どうした、とは?」 「なんか匂いが……顔も、なんつうかぼんやりしてる」 「ぼんやり?」  首を傾げると、はあっと息を吐く。 「どうしたの?」  ルウの番が庵から出てきた。そっちに顔向けルウが言う。 「シグマたちに知らせてくれ」 「なんて?」 「こいつがなんかおかしいって」  頷いて駈け出した後ろ姿を見送り、ルウは俺の背に手を回し、軽く叩きながら共に歩く。 「大丈夫だったか」 「なにが」 「あいつだよ。なにかあったのか」 「なにか……」  信じがたいほど美しく輝く蒼の雪灰──── 「おいっ!」  強く背を叩かれ、眼をルウに向ける。 「まあいいや、俺の仕事じゃねえし。行くぞ、ゆっくりでいいから」 「ああ」  ともに歩く間、ルウの説明を聞いた。森の奥へと向かってから、夜を三つほど超えていたらしい。  俺がいないと知ったシグマは、まっすぐガンマの所へ行って確認し、 「あいつ、儀式の森にいるらしい」  そう皆に伝えた。 「え、儀式の?」 「それって大丈夫なのか?」 「わっからん! ガンマは心配要らないって、そんだけで追い返されたけど。いつ戻ってくるんだか……」  とか言いながらアタマをかきむしり、いつもに増して毛をボサボサにしてから、ルウに言ったんだそうだ。 「おまえさ、ご苦労だけど、またあそこで見張ってくんない?」   ◆ ◇ ◆ 「つーわけでさ! あいつと(あそこ)で二人っきり生活再び!! つうわけよ! いやマジでありがとうな!!」  などと言い出し、いつも通り惚気始めた。  いつもなら辟易するけれど、今は────触発されたように思い起こされる。あの姿、声、甘い匂いと暖かな気配に包まれた、あのときが思い出されるばかり。  蒼の雪灰……。  匂いや気配だけではない。美しさが、さらに増していた。  内から輝く光を纏っているようにすら見えた。あの神々しいばかりの美しさ。  しかし……  身体が整うまで、ということは、本当はまだ儀式が終わっていなかったのだろうか。やはり儀式の場へ行くなど、やめておくべきだったのか。……そんな今さらな迷いもある。
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