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蒼の雪灰が整えた棲まいに着き、中に入って炉に火を入れていると、シグマがやって来て怒鳴った。
「オメガは!」
「……オメガ……美しかった」
「はあ?」
顎が外れるほど大口を開けたかと思うと、シグマはアタマをかきむしり、
「じゃ、ねえよっ!」
また怒鳴った。
「大丈夫かって聞いてんの!」
「……ああ……」
大丈夫……なんだろうか。ガンマのところへ行かなくちゃと言っていた。身体のことだと思っていたけれど、違うのだろうか。なにか……良くないことがあるのでは……本当に大丈夫だろうか……
「ああ~~、うああダメだ、マジでダメだ、……くそ、ちょい落ち着こうぜ。……ったくもう」
おまえが落ち着け、と思いながら、蒼の雪灰が造ったという器に水を入れて差し出した。
「あ? ちょい、いつ汲んだ水だよこれ。……あれ? 匂いは大丈夫だな」
蒼の雪灰を待っている間、ひとりでここで寝起きしていたときに気づいた。
ここに置いてある水は腐らない。なのに隅の洞に蓄えてあった果実はとても良い具合に熟成していた。この棲まいは不思議だ。
「つうか茶ぁねえの、茶!」
などとシグマが騒いでいたら、ルウ筆頭や、イプシロンまでやってきた。
「おまえ、匂いが少し違うな」
「そうか?」
ルウが言うので首をかしげ、シグマに目を向ける。
「おまえもそう思うか?」
「知らんよ! どうでもいい!」
「う~~ん、そぉねぇ、ちょぉ~っと違うかねえ?」
「だからそれはどうでもいいって!」
とにかく蒼の雪灰は大丈夫だということ、もう少しガンマのところで身体を休めていると伝える。
「で! あいつがオメガで間違いないんだな!?」
「ああ」
それは間違いない。
「そうか、じゃあオメガのつとめってのも聞いたか?」
「分からない」
「なんで!?」
シグマが声をひっくり返らせる。
しかし、会話はほんの少しだけだった。
見つめ合い、触れ合って、鼻を擦り合わせ……ああ……そうだ、あのうっとりしたような美しい蒼の瞳……
「なんか言ってただろ!」
「……待ってと。もう少し……」
そう、子作りは待たなければならない……。
「……ううう~~~、おまえ~~~」
「…………」
シグマが唸り、
ルウは無言で眼を閉じて頭を振り、
イプシロンがくちに手を当てて眼を細めた。
「まっててぇ~、なんて感じぃ? それからあ? なんてえ?」
「バカにしてるのか」
「ああ~~分かった! はいはいはい、分かんねえのな? 分かった分かった」
「……バカにしてるな」
「ちがうって、待つんだろ?」
「まっててぇ~って言われたんだもんねえ」
「…………俺らも、待つさ」
ぼそっと言ったルウを見る。いつもの仏頂面だ。
「おまえ! いっつもそういうイイトコ持ってくのさあ! 考えるの面倒とか言うくせにさあ!」
抗議の声を上げたシグマに無言で首を振り、ルウは出て行った。
「俺だけ騒いでてバカみたいじゃん!」
ルウの背中に罵声を浴びせるシグマへ、イプシロンと共に生暖かい視線を向ける。
シグマは賢すぎるから、俺らのほとんどがその思考について行けず、結果シグマだけが騒ぐことになる。よくあることだ。
「……まあいいよ! 待つしかねえんだもんな!」
やけくそのようにシグマが言い、イプシロンは眼を細めて茶を啜った。
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