5.町

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 やがて分かった。ひと族の町で暮らすにはカネが必要なのだ。食べるのも飲むのもいちいちカネがかかるし、寝るところもカネがないとダメだと知った。  発情している奴は言うことを聞くけど、カネはなかなかくれない。なら奪うのが手っ取り早い。  けれど目立つのはマズイ。ひと族の中にいると俺はただでさえ目立ってしまうらしい。これ以上目立つような真似はしたくない。見つかりやすくなってしまう。  そういえば、と思い出す。雌にカネをくれと言ったとき、怒った顔になっていた。 「ひとにそんなこと言ってないで働きなさいよ」  なるほど、働くとカネを貰えるのか。ひと族がみんなしていることなら目立たずにカネを手に入れられるし、務めを果たすと考えるなら人狼にもできる。  そこでメシをくれるひと族に、できそうな仕事があったら働きたいと言ってみた。けれど仕事をするには誰かの紹介が必要だと断られ続けた。夜はメシをくれるひと族が寝るし、疲れるので川縁で休んだ。  月が満ちてくると、やっぱり町中には居られなくなる。  俺はまた川縁で一日過ごす生活に戻った。魚を捕るひと族は毎日来るので、ぼんやり見てたら、「おう、兄ちゃん」声をかけられた。 「しょっちゅうここに居るけど、仕事は」 「探してるけど」 「見つからないのか」 「ほんじゃあ、少し手伝ってくれ」  魚を捕る仕事は、あまり臭くなくて助かった。 「兄ちゃん細っこいのに力あるなあ。少ないけど、これ持ってけ」  魚を少しと、カネも少しだけ貰った。 「どこに住んでるんだ?」 「家は無いんだ」 「ああ? 男前がなに言ってんだよ」 「おめえさんなら、女がほっとかねえだろ」  メシを食わせてもらうことはあると言ったら、ゲラゲラ笑われた。 「メシだけじゃねえだろーが!」 「他のモンもたんまり食ってんだろ!」  どういうことか聞いて、雌と子作りすることを『食う』と言うのだと知ったけれど、そんなことはしてないと言っても信じて貰えなかった。  魚を捕る仕事をするおっさんたちのことを漁師というのだと理解した頃、俺は時々漁師の手伝いをして少しだけカネをもらうようになった。  月が満ちていたら川縁で暮らす。  月が痩せたら町へ入って、仕事は無いか探しながら発情してる奴にメシを食わせて貰う生活に戻る。  漁師のおっさんたちが、住むところがある方が仕事が見つかると言った。ひと族と同じ住処が要るということだろう。つまりひと族と同じように夜寝なければならない。そんなことできるんだろうか。  人狼は基本的に夜行動することが多い。でもひと族の町でやっていくなら、仕事をするにしてもひと族のフリをしないとダメだろう。  住処を得るにはカネが要る。  しばらくカネをためて、試しに宿に泊まってみようと思う。新月なら大丈夫かもしれない。
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