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前のアルファが失われて、季節を問わず子作りしてた時期、森で眠っていたガンマは、変な感じがして郷へ行くと、場所によってはひどい匂いがすることに気づいた。精霊の恵みがほとんど感じられない場所がたくさんあった。そのうえ郷だけゃなく、森からも精霊が離れてしまっていることに気づいて、大変なことだと騒いだ。このままでは滅びると、必死に言ったのに、雌たちや若い雄たちは聞こうとしなかった。
でも子狼だった今のシグマやベータは真剣に聞いて話し合い、なんとかしようとアルファに訴えて、いろんなことを本来の形にしようと変わっていった。今の郷があるのはそのおかげ。
シグマはめいっぱい顔をしかめて以前の郷の話をしたけど、子狼たちが頑張ってた話のときは目を細めていた。
精霊は気まぐれだから、気に入ってる誰かにくっついたまま、郷や森の精霊が外に出ることもある。けど木や草や、産まれた元のものとかに元気が無いと消えちゃう。
だから、ひと里にはほとんどいないんだけど、全くいないわけじゃない。
森や山から吹く風には風の精霊が宿ってるし、水辺があれば水の精霊がいる。水は流れるし風も吹き抜けるから、ずっとその場に留まってはいないけど、気に入るとしばらく漂ってることもある。
町にいたとき、川縁にいたら少し楽になったと言ったら「きっと、いた」と頷いてた。
そしてひと族の中にも、たまに人狼っぽいのがいるらしい。
精霊が気に入ったら、近くに居続けることもあるんだって。
それで思い出したのはアグネッサだ。
あの館は、ひと里の中でいちばん居心地が良かった。それにアグネッサは他のひと族とちょっと違う感じがした。
俺が借りた部屋も、他より楽に過ごせた。あそこにも精霊がいたのかな。俺のこと気に入った精霊が、ひと族の町までついてきてたってことかな。
「珍しいの、連れて帰ってきてる。どっかの精霊がおまえにくっついてる」
ガンマはそう言って、嬉しそうに笑んでいた。もしかしたら町にいた精霊なのかな。珍しいって、どんな精霊なんだろ。
オメガになると郷から出られなくなるってシグマが言ってたけど本当なのかって聞いたら、間違いでは無いけれど少し違うと、ガンマは言った。
オメガは精霊と離れると辛くなる。だから郷から離れるのを厭うようになるってだけで、郷から離れちゃいけないわけじゃない。それに、かなり好きに出歩いてたオメガもいたらしい。
「前にいた。身体、強いの」
強いってどういう事か聞いたけど、分からないらしい。
オメガは身体を保つのに精霊の助けが必要で精霊がいないと弱るはずなのに、何日も郷を離れても大丈夫だったオメガいたとか。
だったら俺も強いオメガだといいなと思った。
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