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ワインの時と同じく、グラスが触れるかふれないかのギリギリまで近付ける。
そして、一息で飲み干した。
宴会が始まってすぐにネクタイを取り去り、ワイシャツの上二つのボタンも外しておいた。
おれの戦闘準備はカンペキ、既に臨戦態勢だった。
喉を首筋を見せつけるようにビールをあおり終え、八広を見る。
思った通りの顔が、そこにはあった。
八広は自分のグラスには口を付けずに、付けるのも忘れておれを見ている。
ボンヤリと呆けているようで、その実、――目の奥にキラリと強い光が灯っていた。
彼と初めて会った時も、そんな目をしておれを見ていた。
その光にはまるで気が付かない素振りで、おれは彼へと笑い掛ける。
わざと軽い感じで、茶化して言った。
「飲まないの?だったら、おれが飲んじゃうけど?」
「あ、いえっっ!イ、イタダキマスっ‼」
今初めてビールを注がれたことを知ったように、八広はコップに口を付けた。
中身を干した後の、しかめっ面と言ったら!
「――他のがよかった?」
「大丈夫です!」
と言い放った彼の言葉を、おれは脳内で「ビールは苦いので、ニガテです!」と超訳した。
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