唇の秘密

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唇の秘密

 あぁ――、彼の顔をこんなにも間近で見たのは初めてだ。 吊り目気味な一重の目は、見掛けるたびに怒ってるようだった。 その所為(せい)で、第一印象が「生意気、取っつき悪い、何だか怖い」と、三大見た目損をしていた。  その目が今、自分だけを映している。 ――思わず、ウットリとして見つめ返してしまった。 縁どられているまつ毛はけして長くはないが、キレイに揃っていることまで分かる。   見上げているはずなのに射抜くような、その鋭い視線に、文字通り心臓(ハート)を串刺しにされた。 反射的に背筋を震わせる。  幹事の持ち回り上致し方なくだったが、忘年会に参加してよかった。と、心の底から感じた。 うれしさあまりについ、彼の目元へと顔へと手を伸ばし掛けた。 寸でのところでどうにか止めたそれを、彼の手が掴む。  彼の、八広(やひろ)(めぐむ)の声はけして大きくはなかった。 しかし、おれの耳には実にハッキリと聞こえた。 「磐田(いわた)さんがイケナイんですよ・・・・・・あんなにエロい乾杯するから」 「え?」  怒ったような困ったような言葉を聞き返したおれに、八広は応えない。 手を掴んだまま逆ので、後ろ手にトイレのレバーを下げた。 彼が座る下で、ザァーザァーと水が流れる音が立つ。
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