唇の秘密

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 指先をおれの唇の上で彷徨(さまよ)わせたままで、八広は続ける。 「磐田さんの口元ってホント、色っぽいですよね。乾杯の時にグラスにつけてたのヤバかったです」 「そんなこと――」 ない。と言い掛けた口を、彼ので塞がれた。 当然のように潜り込んで来る舌に口の中だけとは言わず、頭の、――心の中までもグチャグチャにかき混ぜられる。  ない。というのはウソだと、ついつい白状してしまいたくなる。 両端がキュッと持ち上がっていて厚めな唇だが、けして大きくない口は見る人――ゲイがみると『堪らない』らしい。  あんまりにも言われ続けるものだから、自分でもその気になった。 ここぞという時には積極的に見せ付けて、『切り札』に用いるようになった。 そう、さっき八広と二人で乾杯をした時のように――。
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