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接近戦
八広へと近付いたのは二時間の宴会も半ば過ぎ、座がばらけた頃を見計らった。
片手に瓶ビール、もう片手にはコップを持ち、彼が居る座卓の空いていた左隣に腰を下ろす。
「どう?楽しんでる?」
「あ、はい・・・・・・」
幹事の立場をせいぜい利用して、普段の付き合いがほとんどないのをカバーした。
とは言え、彼とは全く見知らぬ仲ではなかった。
彼が憶えているかどうかは分からないが、チョットした貸しを作っていた。
――イチかバチかの、賭けだった。
賭けはおれの勝ちだった。
どうやら八広はそれを、おれのことをすぐに思い出したらしい。
「あ、あの時の――」
と、つぶやくと同時に、彼はスーツの内ポケットへと手を入れた。
財布を取り出そうとしただろう手に、止めるフリをして触れた。
「今はいいよ。後で返してくれれば」
体で。とは、心の中でひっそりと付け足す。
ビール瓶の口を、彼の方へと傾けた。
慌てて手に取った、空になっていたグラスに中身を注いでいく。
八広が注ぎ返しの行動を起こす前に、手酌をした。
「カンパイ」
「あ、はいっ!」
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