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おれは八広の隣に座ったままで、手酌で飲み始めた。
念のためにも、酒の席でのよもやま話の体を装った。
周りにもそうにしか見え、思えなかったと思う。
「二次会は参加するの?」
おれの質問に、彼はしつもんで返してきた。
「――磐田さんは、モチロン参加するんですよね?」
幹事なんだし。と、ポツリと付け足される。
イヤミや揶揄などではなく不満に聞こえたのは、けしておれの自惚れではないだろう。
改めて、それを確かめることにした。
おれは座卓に頬杖をつき、彼の顔を下から覗き込んだ。
そして、その目に向かってそっとささやき掛ける。
「うん、イクよ――」
「⁉」
微妙に変えた抑揚と強調とに、八広は瞬時に食い付いてきた。
目の奥の光が、キラリからギラリ!へと変わった。
ヒット‼
釣果を、しかも大物を獲た手応えを確かに感じる。
「じゃあ、引き続き楽しんで」
心の中で糸を垂らしていた釣り竿を、一息に引き上げた。
おれはそう言い残し、後は彼には一瞥もくれずに腰を上げた。
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