第六話「思い出の渦」

3/7

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
冷凍庫には、いつも凍ったバナナが入っていた。美味しい……のだけれど、たまにいつ凍らしたのか分からないバナナもあったし、カチカチでしばらく放置しないと食べられないバナナもあった。 やっと終わる、と思っても、次から次へと冷凍庫にはバナナが投入されていく。おやつに何度カチカチのバナナを食べたのかも、思い出せない。   足が悪くなって歩けなくなり、私たちがご飯を食べさせるようになってからも、やはり食べ物はつきまとった。 お母さんが忙しい時は、私がご飯を食べさせてあげていた。私は気が付かなかったのだけど、私がご飯を食べさせる時、おじいちゃんは嬉しそうにしていたらしい。……逆だと、思っていた。私は介護なんていうものがとことん苦手で、というか風邪の看病すらも苦手で……だからか、ご飯も一口をどれくらいにすればいいか分からなかった。おじいちゃんも、たまにお皿を叩いて「もっと」とか「これ食べたい」とか「それ取って」とか催促するけど、私が分かるのはそんなのだけだ。一口の量が分からなくて、とりあえず喉につまらないようにちまちまと小さく切ってはあげていた。だけど……亡くなる少し前に、もっと一気に食べさせても平気だとお母さんに笑われた。その一口が、実は私よりも多いというのに軽くショックを受けた事を覚えている。 次あげる時は、もっとちゃんと美味しく食べさせてあげたい。そう思っていたのに……もう二度と、私が食べさせてあげる事はないんだ。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加