第六話「思い出の渦」

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もちろん、食べ物の思い出しかないわけじゃない。 私はおじいちゃんっ子で、おじいちゃんが大好きだった。確かに、亡くなる数日前はお母さんを取られたみたいで悲しかったけど……それでもやっぱり、大好きだった。   「おじいちゃんっ」   うちはお兄ちゃんとも年が離れていた――長男とは九歳、次男とは七歳違う――し、両親も共働きだしで、小中学生の時は、家に帰ると大体おじいちゃんと二人だった。 家に帰ると、テレビがある部屋で二人してのんびりとテレビを見た。会話は、あまりしない。というのも、おじいちゃんの耳があまり聞こえないので、私との会話は滅多に成立たないのだ。だからこうして一緒にテレビを見る事だけで、何だか楽しかった。 「おじゃる丸」を「おじゃ丸さん」と呼び、それを話題に突然話しかけてきた時、私は散々笑った。何度訂正しても、不思議そうにして「おじゃ丸さん」と言って笑うおじいちゃん。そんな笑顔を見ていると、まぁそれほど間違ってるわけでもないし、いっか。という気持ちにさせられた。会話が成立たないのは個人的にかなりのショックだったけど、そんなほのぼのした雰囲気も、私は大好きだった。
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