第六話「思い出の渦」

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小学生の時は、二人でよく買い物にも行った。お母さんにお菓子をねだっては断られ、おじいちゃんの優しさに甘えたものだ。自他ともに認める甘えん坊だった私は、おじいちゃんとの買い物が大好きだった。   「何でもいいでな。これも買い?」   が、私は性格上あまり甘えすぎる事をしなかった。アレも欲しいコレも欲しいと喚く事はあっても、いざ「もっと買い」と言われると、ついつい我慢してしまう。お金が次から次へと湧いて出るようなものじゃない事くらい、私だって知っていた。もし湧いて出るものなら、お母さんも働きに出ている必要がなくなるから。 だけどいくら遠慮して少しだけにしても、おじいちゃんにはお見通しだ。私の好きなお菓子を、たくさん買ってくれた。その時の私がよっぽど嬉しそうに笑っていたのか、おじいちゃんはいつも笑顔で私を買い物に連れて行ってくれて……。そのたびに、私は喜んで着いて行った。   一緒に買い物に行かなくなってからも、おじいちゃんは私のお菓子好きを忘れてはいなかったのだろう。お小遣いをくれては「コレで好きなもん買いな」と、笑って言ってくれていた。 時には、やたらとたくさんのお菓子を買ってきては「これはお兄ちゃんの分」「これは瑞樹ちゃんの分」「これはお母さんの分」と、説明をしながらくれたりもした。しかも、一人一パック。種類は各種。ご丁寧に名前まで書いてあった事もあった。……さすがに食べ切れなくて友達に何度一緒に食べてもらった事か。 そういえば、いつもお父さんの分はなかったな。
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