雪の音

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有紀と敦盛は、――会話のほとんどは仕事絡みのことだったが――、何度か二人で食事をし、一緒にライブを観終わり、駅まで並んで歩いていた。敦盛さん? 敦盛くん?――呼び方も迷ってしまうが、付き合っているのかいないのか? 親しい友人、ひじょうに、は付くのかな? 彼氏? 恋人?――二人の関係は過渡期といえた。 敦盛は有紀に、「はーい」と言いながら左の腰に左手を添えながら腕で輪をつくってみせた。この瞬間、二人の左方向から強い横風が吹きつけた。有紀は右によろめきながら、右手をその輪に入れた。二人は寄り添いながら、ふたたび駅へと歩きだした。 「いまから彼ね」 有紀は彼に聞こえるか聞こえないか微妙な声の大きさで話しかけた。しかし敦盛は前を見ながら歩いている。有紀は「聞こえなかったみたい……いやその振り?」と心の中で呟いた。 二人には雪がほんのりとピンクに咲きながら舞っているように見えていた。 有紀はぴょんぴょんと跳ね、ステップを踏みながら、左手を動かし、さっきまで会場で聴いていた歌を口ずさみながら、五人組アイドルユニットの真似をしていた。 「なんだか、ネコじゃらしで遊んでいる猫のようだな」彼はそう言うと笑みをたたえて有紀の姿を見つめた。思わず彼女の口から、「ああ、し・あ・わ・せ」この言葉が出た。
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