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音がする。
音がすると、いる。
「若。お食事です」
音がして、いると、気持ちが良くなる。
けれど一緒に普段は何もないところから何かが出てくる。それはそのまま出て行く。
「ああ、若。涎だらけです。口から涎出てますよ。お腹すきましたか? いい匂いでしょう」
体が重くない。痛くない。それなのに気持ちが良くなる。
「ご飯です。『ご、は、ん』。言えますか?」
パクパクと動かしながらそう言ってくる。
見ていると勝手に自分のその場所も動いた。
けれど同じようにできない。
パクパクとすると何かが聞こえるのに、自分がパクパクしても何も聞こえない。
パクパクをやめると、また何か聞こえた。
「う、うーん。声の出し方ってどうやって教えればいいんだろう。生き物として当然の技能なんじゃないの? 発声法、か。えーと、息を吐きながら口や喉や舌の動かし方を教えればいいのかな。でも、うーん、この身はこんな身なればこそ、若と同じような発声法なのかもわからないし。う、うーん。これは難儀な………」
聞こえてくる度にそっちを見る。
音がする方を、見る。
音がする方を見て、パクパクする。
自分からは音が出ない。
パクパクしながら動かした。ぺちぺちと音がする。
「若? なぜ床を手で叩いてるんですか? 何でちょっと嬉しそうなんですか? ん、うーん。人の考えることって難しい………」
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