行き場のないおまけ・「余計なお世話か。」

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「大丈夫だよ、立派な物だ。これなら、どこでも通じるんじゃない?」 「本当に?」 「ほんと、ほんと。」  先程目を通した資料は、ビジネスの場でよく目にする書式に則ってまとめられ、A4の紙に印刷されていた。  一般的な企業や一部の業界では普通なのかもしれないが、骨董や従来の伝統産業の世界ではきっちりし過ぎている程きっちりしている、立派な資料だ。 「資料ももちろんちゃんとしてたけど、説明も交渉も上手だし……分からない事を曖昧にしないで、一度持ち帰って確認します、って率直に言ったところも好感持ったな」 「長内さんにそう言って頂けて、安心しました」  千都ちゃんはふうっと息を吐くと、そう呟いた。  結婚前に、壮介の仕事を手伝うつもりなら、覚悟を決めてからやってくれと釘を刺した事がある。その時の彼女はこういう裏方仕事中心ではなく、金継ぎの弟子として仕事をしていた。彼女がある日俺に頼み事をして来たのが、釘を刺すきっかけだった。その後いろいろな事が有り、彼女の立場も激変したが……あの時、壮介の顔に泥を塗ったら許さないと言った事を、千都ちゃんはきっと忘れてないんだろう。 「安心して。俺は誰が相手でも、お世辞は言わないよ。褒め言葉は、額面通りに受け取って」 「ありがとうございます。良かったです。産まれる前に、資料一式まとめて置きたかったから」 「産休中は壮介がこれ作るの?Excelなんか使えるのかな」  お湯が沸いたので、お茶を淹れに行く。  壮介はExcelどころか、パソコンを使えるかどうかすら怪しい。ガラケーからスマホにしたのだって、最近だ。
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