行き場のないおまけ・「余計なお世話か。」

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「無かったっけ?恋人らしい期間」 「……え?」  聞き返してやっと千都ちゃんも「鳩が豆鉄砲食らいました」的な顔になってくれた。  (はた)から見ると壮介は、千都ちゃんが「先生」と呼んでいた頃からずっと、彼女に何かと甘かった。大きな声では言えないけれど、華也ちゃんの時と比べると、それはもう格段に、あからさまに行動が変だった。  お土産は買って帰るわ、漆の件が発覚する前は子ども相手でもないというのに頭は撫でるわ、発覚した後は千都ちゃんの体調を気遣い過ぎるあまり辞めさせようと画策するわ、興味の無い振りをし過ぎて千都ちゃんにやたらとキツく当たるわ……本人は「保護者の責任だ」的な師匠面(ししょうづら)をしていたが、どう見ても師匠のする事では無い。結局、収まるところに収まった訳だが……周りはとんだ迷惑だった。  こんなことなら、最初からまとまってりゃあ良かったものを……って訳にはいかなかったんだろうけど、本人達には。  短い短い恋人期間なんか、それに輪を掛けて酷かった。浮かれた壮介の人目を憚らない甘やかしの数々。可愛い可愛い可愛いと体中から漏れしていて、よくそれで仕事になるなと思ったものだ。  しかし、千都ちゃんの方は、お見事だった。きちんと公私の使い分けをしてみせたのだ。さっき、「先生に余計なことをさせないのが私の仕事」と言ったけど、千都ちゃんはあらゆる意味で壮介の邪魔をしない。  打ち合わせとか教室中とかの手伝いもだけど、何よりも壮介が仕事に集中している場に居る千都ちゃんが醸し出す、独特の静けさ。それは相手が壮介だからなのか、他の誰かでもそうなのか……それはもう、永遠に分からない。 「結婚してから恋愛する夫婦も居るよね、お見合いとか」  君達最初から恋人同士みたいだったよ、と言っても通じそうも無いので、適当に例を出す。 「先は長いんだし、人それぞれで良いんじゃないかな?千都ちゃんが恋人気分を味わいたいとか言ったら、壮介はいつでも全力で聞いてくれると思うよ」 「……そうですね」  恥ずかしそうに俯く千都ちゃんは、妊婦さんとは思えないほど初々しく可愛い。和むなあ、と思いながら見詰めていたら、入口から不穏な空気が入って来た。
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