行き場のないおまけ・「余計なお世話か。」

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「ちぃ……」 「あ、ううん。不満が有る訳じゃなくて……」  壮介の顔が曇り、千都ちゃんが慌てて手を振った。 「ただ、デートとかもっとしてみたかったなって」  ……え。  してなかったっけ、デート。  方向音痴で心配だからって千都ちゃんが付いてったり、勉強の為だからって壮介が荷物持ちに連れてったりしてたよね?……荷物はほとんど壮介が持ってたけど。 「分かった。生まれるまでに行こうな、デート」 「はい!ありがとうございます」 「どこ行きたい」 「水族館と」  行ってたよね? 「あと、動物園とか」  行って無かった? 「美術館も良いな」  絶対行ってた、それ。 「あと、旅行!旅行は」 「遠くは駄目だ」 「……近くなら良い?」 「場所と日程によるな」  旅行も行ってた気がするけど、黙っておいた。  この二人にとって、あれは「仕上がった器を遠方のお客様にお届けする為の一泊二日の出張」なんだろう。  なんなの、この惚気でしかない茶番な夫婦漫才。  黙って見ている俺の存在を思い出したのか、千都ちゃんがはっとして居住まいを正した。 「長内さん、品物をお預かり出来る限り様になりましたら、また参ります。先方様に宜しくお伝え下さい」 「了解しました。決まったら連絡するね」 「ありがとうございます」  微笑む千都ちゃんに、壮介がせっせと道行を着せかけている。そんなにさっさと帰りたいか。それに、過保護か。  そう言ったら妊娠中は一人で道行を着るのは大変だとか大事を取って取り過ぎる事は無いとかなんとかうるさくなるだろうから、黙っておく。 「では、失礼します」 「邪魔したな」 「ああ。お……」  うっかり、お幸せに、って言いそうになった。言うまでも無く、言う必要も無い。 「お大事に、千都ちゃん」 「ありがとうございます」 「ありがとう、和史」  壮介が千都ちゃんの背中に手を添えて微笑みかけて、千都ちゃんが壮介を見上げて笑う。  ……やっぱり、「お幸せに」だな。  今までも今も抱えている物が拭われる位の幸せが、君達の前途に有りますように。  余計なお世話は口には出さずに、お腹がほんの少し目立ち始めた新婚夫婦の後ろ姿を、戸口に立って見送った。           【終】
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