牧先生と千都香(金継ぎ師弟の恋にはなれない恋の話)

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 いただきます、と千都香も和史の手から皿を受け取って、小さなかけらを口に入れた。 「……美味しいです!!紅茶と合いますね」 「気に入った?……なら良かった」  先程淹れた紅茶を飲みながらパイを食べ進める千都香と和史は、にこにこと微笑み合った。 「旨いな」 「……甘いな……」 「文句言うのやめてくれます?せっかく美味しく頂いてるのにっ」 「文句じゃなくて感想だ」  切り分けた和史も含めて、四人の皿はきれいに空になった。 「残念……出なかった……」 「えっ?」  言われて皿を見ると、ガレットは二切れ残っている。丸を四つに切ると大き過ぎると思ったのか、ガレットは六つに切られていた。  残ったではなく、出なかったとは、何だろう。毅と壮介はまた飲み始めて居たので、意味不明な呟きは千都香だけが聞いていた。 「これ、台所に置いておくね。残り二切れだから、壮介と二人で食べて」 「はい。ありがとうございます」  和史が、ガレットを持って立ち上がった。切り分けるのも作法が有ったのだから、仕舞っておくのも作法が有るのかもしれない。それに、千都香より和史の方が、この家には詳しい。  ガレットの事は和史に任せようと思った千都香の頭の中からは、「出なかった」の件は、消えていた。       
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