雪彦と愛香(禁断じゃない従叔父姪の話)

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【おなかがいたい日】※新作  眠れない。  ベッドの中であっちこっちころころ向いても、眠くならない。あきらめて起き上がって、そーっと部屋の外に出る。  誰もいない。私だけだ。お父さんはさっき「行って来るね」って心配そうに頭を撫でて、お仕事に行った。  キッチンに行くと、朝ご飯がラップして置いてある。朝忙しいのに、お父さんが頑張って作ってくれてるご飯。  私はしゃがんで、丸くなる。  おなかいたい。  学校行きたくない。  誰にも会いたくない。 「ぅ……」  息が苦しい。  今すぐ消えちゃいたい。    丸まってたら、ピポピンポーン、って、チャイムが二回くっついて鳴った。  部屋に戻るのが、間に合わない。ベッドから出なかったら……せめて、部屋から出なかったら良かった。  どうしようって思ってたら、玄関が開く音がした。  ぎゅうっと丸まる。見つからないくらい、小さくなりたい。  そんなには小さくなれなかった私は、しばらくたったあと、ふわっとあったかいもので包まれた。 「まなちん、おはよー。お邪魔しまーす」  背中に乗せられたのは多分、ソファの上に置いてあるブランケット。お母さんが私の赤ちゃんの頃から、ずっと使ってたっていうブランケット……家でも、病院でも。 「お見舞いに来たよー?お腹痛くて休むって聞いたからさー」 「……ん。」  いらっしゃいもおはようも言えないし、ちゃんと返事もできない。だめな子。 「床に座ってると、冷えちゃうよ?あっち行かない?なんかいる?飲み物とか」 「……ゆきにい……」 「ん?」  ほんとはそんなにおなか痛くないの。  今日起きたら、行きたくなかったの。  私、全然平気なのに、時々行きたくなくなるの。  だけど、休んでも寝れないし、ひとりでいるのもいやなの。  なんか言おうとすると、喉が詰まる。 「……ごめんなさい……」 「なんで?」  まなが、ずる休みする悪い子だから。  だから雪にいがわざわざ来ないといけなくなっちゃうんだよね。……ごめんなさい。  言えないでいたら、頭を撫でられた。 「俺の方はごめんなさいじゃなくて、ありがとうって気持ち!」 「え?」 「だって、普通の日の昼間にまなちんと会えるなんて、特別じゃん?サプライズみたいで嬉しくない?」  ……嬉しい。  ゆきにいにごめんなさいって思うけど、会えるのは、いつだって、すごーく嬉しい。  ゆきにいも、特別で、サプライズで、嬉しいの?  体も気持ちも丸まってたのが、ちょっとずつ戻っていく。 「お腹には悪いけどさー、嬉しすぎて、痛くなってくれてありがとう!って思っちゃうなー……って変かー。ごめん」 「ううん……あ」  おなかが鳴った。  私じゃなくて、ゆきにいの。 「……まなちんのお腹じゃなくて、俺のお腹が怒っている……」  ゆきにいは悲しそうな声を出して、すみませんってお腹に謝った。 「ゆきにいのおなか、おなかすいた!って?」 「うん。」  おかしくて、笑っちゃった。だって、ほんとに困った顔してるから。 「ご飯あるよ!まなのご飯半分あげるから、一緒に食べよう!」 「いいの?ありがとう!」  そこで、気が付いた。髪もパジャマも、寝てた時のままだ。 「待ってて、着替えてくる!」 「うん。急がなくていいよー、ちゃんと待ってるから」  ゆきにいは、にこにこ手を振った。  ご飯を食べたら、何時までいれるのか、聞かなくちゃ。  このあとどうするかを考えながら、クローゼットの中からチェックのスカートとタイツとふわふわのセーターを出して、着替え始めた。          【終】
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