第1章 出会い

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 小姓は常に信長の側にいて、主のもとを訪ねる客人や家臣の目線に晒されるため、非常な緊張を強いられる。  そのため、数人で一組になり、一日に数組が交代で勤めに当たっていた。  万見仙千代と高橋虎松は、当番には組み入れられずに本人の裁量で働いていたが、席のあたたまる暇もないほど忙しくしており、ひとりの新参者にかかずらってはいられなかった。  仙千代は乱丸に、慣れるまでの間、先輩の小姓について彼らの仕事ぶりを見ているようにと指示し、小河(おごう)愛平(あいへい)に引き合わせた。  乱丸は愛平と行動を共にして、小姓としての立ち居振る舞い、備品の置き場所、主の食事の配膳や着替えといった身のまわりのお世話、献上品のお披露目の仕方などを教わった。 「仙千代どのは上さまの一番のお気に入り故、十八歳になっても元服させてもらえぬ。さすがに書状を発給する際、童名では恰好がつかないと考えたのか、仮元服をして(いみな)は持っているものの、いまだに前髪のままだ」  小姓部屋で霰糖(あられとう)をつまみながら、愛平は訳知り顔でささやいた。  諱は、成人した武士に付けられる実名(じつみょう)のことである。  この時代、武士や身分の高い者を実名で呼ぶのは失礼とされており、官位や通名(とおりな)で呼ぶのが常であったが、書状には諱を署名をするのが礼儀とされた。
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