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また、家臣団の中から、信用のおけるしっかりした者を選び、子供の教育係──傅役として側に付けるのも、ごく当たり前のことだった。
顔をあげた乱丸は、正面に座している若者を、まじまじと見つめた。
かつてこれほどまでに美しい人間を見たことがなかった。
品よくまとまったくちびるは紅をさしているかのように赤く、口を開くと白い八重歯がチラリと顔をのぞかせる。
黒目がちの目は長いまつ毛にふちどられ、まばたきをするたびにパサパサと音がしそうなほどだ。
いたずら好きな神が気まぐれに「たまには全力を出して、完璧に美しい人間を作ってみました」とでも言わんばかりの傑作で、目鼻やくちびる、輪郭の形、その配置も緻密で非の打ちどころがない。
麗しいのは姿形のみではなく、ひとつひとつの所作も洗練され、信長公の小姓頭にふさわしい凛とした威厳をまとっている。
まるで後光でもさしているかのように、仙千代のまわりだけ空気の色さえ違って見えた。
「本日は、わが主よりのお使いでまいりました。さっそくですが──」
仙千代は書状を取りだすと、するすると慣れた手つきでひろげた。
それは、『天下布武』の御朱印が押された、信長公からの文だった。
「乱丸どのの初出仕が明日に決まりました。上さま御自ら御会見なされます」
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